23回忌

昨日は父の23回忌の法事だった。

息子は咳が止まらず、欠席。珍しく母、姉、夫、私の四人で行動した。

この息子の不参加には母が最後まで粘った。

しかし咳があるから行かないという息子の意思も固い。

もう間に入ってあれこれ気配りするのが嫌なので本人同士、直接話をつけてくれるよう言った。

前日になって諦めきれない母が、夕方息子にもう一度ラインを送るというので仕事が終わらないと返事は来ないと思うからそのつもりでねと答えた。

「ちょっと、これ、見て、これでいいかしら」

送信する前にこの文面でいいだろうかと見せる。

びっくりするくらい下手にでた、甘ったるい文章に苦笑する。片思いの彼を初デートに誘うかのような細心の注意を払った言葉選びで遠慮がちな内容だった。

「これで断ってきたら非人間だね」

と笑うと

「いいのよ、半ば諦めてるから、無理しなくて」

非人間の息子はやはり丁重な言葉で断った。

 

法事の帰り、四人でホテルのラウンジでお茶をする。

ケーキを食べなさいと母が言う。

いや、いいから。と私。

じゃ、私も食べない。と母。

なんで、さっきケーキセット食べたいって言ってたでしょ。構わず食べて。そのほうが気が楽なのと私。

じゃあ・・と食べたいケーキを選んで注文してくれた。

こんな些細なことでも鷹揚にふるまえない。ケーキを食べているのを見れば安心するのだから食べてみせてやればいいものを、できない。ああ、これが私かと軽く劣等感を感じつつも、これが私なんですと落ち着いた気持ち。

とにかく自分を貫けた。期待に応えることよりも。

 

夕食も息子は一人、家に残り私と夫は実家で寿司を食べる。

目の前に座り、私の寿司桶に自分のところから握りや巻物を入れてくる母。

どこまでもどこまでも母なのだ。

うまく受け取りたい。

母が入れてきた寿司は、今度は食べた。

しかし、夜、お腹を下す。

親と食事でなに、緊張してんだ私は。

 

それでも。

父の病気がもう助からないとわかったとき、30代の私は「お父さんが死んでしまったら自分は壊れてしまう」と怖かった。

父が亡くなった後は、泣いてしまうとその現実を受け入れたことになると思い、泣くことも笑うこともできなかった。

23回忌の法要には、笑ってる。

あんなに大好きだったお父さんだったのに、いなくなった今、それなりに生きている。

それなりに。

母との関係もそれなりに、ときどきギクシャクしながら、やっていける。

うまく受け止めきれないこともあるけれど、うまくやっていける。

そんな心境に気がついた法事だった。