白熱討論会

おはよう。

おはよ。

あの、昨日は申し訳ありませんでした。今日はドコモショップやめます。

そうですね。それがいいですね。

 

昨夜、急に夫が言い出した。

iPhoneが値上がりするんだって。トンさん携帯新しいのにしたいって言ってたから明日、もう変えちゃおう。父さんのも一緒に変える、この際だから」

やった。棚ぼた。

確かに携帯が古すぎで支障をきたしている。

TVerが使えない、LINEの立ち上がりにかなり待つ、メッセージが届くのに時差がある、対応していないアプリも多くなってきたのでそろそろバージョンアップしたいと半月ほど前、言った。

iPhoneの5sを、当時最新機種としてふたりお揃いで購入した。

まだ私も扱いに慣れず、夫婦揃って店頭で設定やらパスワードやら教えてもらいながらガラケーから移行した。

それから数年後、手の大きい私は指先がボタンに収まらず、学校役員の連絡事項やママ仲間からのメールの返信に常にもたつく。

そこで自分の小遣いから中古の6sを買いそれに変えた。

小学生だった息子は育ち、携帯を持つ。iPod touchを小遣いで買う。iPhoneを持つ。

何度か同伴で店に行ったが私たちの携帯事情はそのままだった。

使えたので取り替える発想もなかった。

しかし私はその間地味に成長する。Windows教徒からMac信者へと変わったのだ。

長期入院ではiPadに助けられ、iCloudを知り、Bluetoothの便利さに感動する。

壊れそうになっては修理を繰り返すうち、基礎クラスの扱いはできるようになった。

息子は息子で、大学の授業制作で使いこなすようになり、いつのまにか私より数段上の知識を持つようになっていった。

しかし夫だけはあの、店頭で二人揃ってレクチャーを受けたあの頃にとどまったままである。

LINEスタンプのダウンロードも。

買ったCDの音源をとりこむ方法も。

写真を印刷する方法も。転送する方法も。

知らない。

ゴルフコンペの幹事になり、当日撮った記念写真を添付して参加者にメールを送ることができず、私はわざわざ彼の会社近くのスタバに出向いた。

その彼が。言うのだ。

「ぼく、せっかくだから、最新機種のにする」

iPhoneの最新機種とはつまり、13プロとかいう、14万以上する、最高級機種のことだ。

あわててそのスペックを調べると、大きな違いは望遠の撮影ができる、動画をかなりの量保存できるのようである。

おそらく映画を撮ったり、動画を投稿したり、趣味はビデオ撮影とか、DJとか、もしくはそれ関係の仕事をしている人とか、とにかく基礎、応用、特練、選抜で言えば、確実に応用上級者クラスのお方達が扱うのにふさわしいものだ。

いやもちろん、基礎クラスの人がこれから動画をはじめるぞ、と買っても構わないと思うし、Appleは直感的に操作できるようになっているからちゃんと使えると思う。

だが。どうだろう。我が子が小学生から成人し、社会人二年目になっているその間、電話とメールとLINEでしか携帯を使わなかった夫に、しかもその相手は主に家族のみという夫に、14万以上のマシンを手に入れるだけの資格があるだろうか。

LINEですら会社の人に頼むから使えるようになってくれと懇願されても頑なに入れなかった。新しいことを覚えるのがめんどうなのだ。

ご迷惑をかけていることを知り、あわてて私がダウンロードし、使いかたを教えた。

書類はこのアプリで写真撮って保存するといいよと言っても、バス停の時刻表を写真に撮っていれとくといいよと言ってもいつも答えは同じ。

「いいの、これで」

その男が。何度も言うが、Appleの最高級品を買うという。

私ですら、その数段階下のクラスで十分だと思っていると言うのに。

「そんなすごいの、使いこなせないからもったいないよ。」

説明しても言うことを聞かない。LINEを職場で断った頑固さがここで顔をだす。

「とにかく一番いいのにする」

いやいやいや。そういうもんじゃない。

言い出したら聞かないところがあるから今回も押し切られるかとあきらめ夕飯にした。

夕食後、夫が息子に言った。

「明日、父さんと母さん、携帯買うんだ。父さんは一番いいのにするんだ」

息子の表情が曇る。

「最新?13買うってこと?使えないじゃん、あれ10万以上するんだよ、使えねぇだろ」

そこから。長い長いお説教がはじまった。

「だって。会社で使うアプリが対応してないんだもん」

「仕事には会社から支給されてるのがあるだろ。会社が今どきアプリ対応してないバージョンのよこすわけないだろ。つまりそれだって使いこなせてないってことだろ」

「音楽とか英語の教材を入れようと思ったらもういっぱいなんだもん」

「容量はもっと下の機種でも今の何倍も入るのがある、第一、できんのかよ、音楽とか取り込むの、自分で。そんなこともできないくせに。調べたのか?ちゃんと全部の機能の違いをっ。調べてないんだろう、下品だ、そんな雑な買い物っ」

それでも夫は粘る。うっすら指摘されている点を理解したものの、引っ込みがつかない。

「金を使うなってんじゃないんだ。ちゃんと必要としているものはどれかって調べて選べよ」

でも、だってと言う夫の勢いが弱まったところで私も加勢する。

「あなたの言ってるのは、免許を持っていない私がポルシェ買うっていってるようなものなんだってば」

久しぶりの白熱だった。

そして、今朝の「申し訳ありませんでした」につながる。

一晩考えたそうだ。

「よく考えてしばらく様子をみて、それからにします」

私の携帯も当分このままだ。