見たんか

梅雨前線が消えたそうだ。

天気図の上の方に移動したのが、そのまま消えてしまったそうだ。

本当かな。寝ぼけながら聴いていたラジオがそう言っていた。

たった今、梅雨があけたと報道された。

三週間しか梅雨がなかったそうだ。これは本当。ちゃんと起きていた。

今日は植木屋さんが朝早くから来ている。

今週は東京も32度、34度と予想気温が高い。倒れやしないかと心配だ。

しかも作業をしてくれているのはシルバー人材センターのおじいさん。

彼に比べたらペーペーの若造がこうして家の中でエアコンつけているのが、申し訳なく思う。

「あの人、一人になったでしょ。あれ、喧嘩して愛想つかされたのよ」

我が家のシルバーマダムこと、母がニヤニヤしながらそう言う。

そういえば確かに以前は二人組だった。ひょろっと背の高い品の良さそうなおじいさんと、今庭に居る、骨太ガッシリ、背の低い親父さん。

「バカ、なにやってんだよっ、違うだろっ。こっちからだよっ」

「だから違うって、はやくしろよっ」

一時間に一回くらいの割合でガッシリ親父が怒鳴る。

「あ、そうかそうか。そうするかい」

ひょろりのおじさまは、決して荒ぶることなく穏やかにかわしつつ、仕事する。

それでも二人仲良く、お茶菓子を食べながらおしゃべりもしていた。

そんなに険悪な空気だったとは思えない。

そう母に返すと

「いや、ちがう、この前、あの優しい方の人がめずらしく、大きな声でなんか怒ってたもんっ。めっずらしく。きっとあれよ、もう我慢の限界だったのよ」

「でもこの前電話では、お相手の人、体調崩してやめたって」

「そんなの嘘にきまってるじゃない、嫌がられたのよっ、愛想尽かされたんだって!」

「わかんないでしょう。本当に具合悪くなったのかもよ。」

「そんな感じじゃなかったじゃない、元気そうだったもの、もうやんなっちゃったのよ、あの人とやるのはっ!」

「決めるな。本当にコロナにかかっちゃって後遺症で苦しいのかもしれないでしょ、もしかしたら持病があってとかさ、わかんないでしょ。」

「だって!絶対そうだもん!」

どうしてこう思い込みが激しいのだ。これで私も相当苦労した。

そんなこと思っていないのに、嘘つくな、絶対そうだと批判する。

そんなこと考えてないのに。

何度悔しくて泣いたことか。

母の言い分も、いかにもありそうな話ではあるがあくまでの彼女の妄想である。

「見たんか。オメエは。勝手に話を作って言いふらすんじゃ無い」

半分笑いながら、でも厳しく注意した。

「あら、でもそれが本当よ。間違いないわ」

ぺろっと下を出してシルバーマダムは帰っていった。

 

あらぁ、どうもすみませんねぇ。お一人で大変でしょう。

外から母が10時のお茶を出しながら話しかけているのが聞こえる。

シルバーマダムめ、しれっとマダムになりやがったな。