朝のひとこま

夫が朝早く車で出ていった。

身寄りのない親族が亡くなり、その葬儀に関するあれこれを夫と義兄が請け負っている。

今朝は家の整理をしていたときに出たゴミを、その地域のゴミ捨て場に出すために向かったのだ。

「今日がちょうど燃えるゴミ日なんだ」

えらいなあ。こういうとこ、この人は尊い。当たり前のようにする。

妻はそうやって尊敬しているくせに外は雨なものだから布団にくるまり

「安全運転でね。気をつけて。雨でみんな急いでるから」

「うん、安全運転でいってくる」

これだもの。

それでもなんだか落ち着かなくて私もしばらくして起き上がる。

ズキッ。アテテテ。

首を寝違えたようだ。

台所の引き出しにしまってある湿布を取り出す。

昨年末、骨折の際にもらったものだが、骨が折れてるんだから痛いのは当たり前だと、痛みのひどい数日しか使わなかった。整形外科でだしてくれる湿布はきっと薬局のより効くんだろうと大事にとっておいたのだ。

それを、取り出す。

骨折は我慢できても寝違えだとそうはいかない。我ながらおかしい。

緊急入院した時も、どうしてこんなになるまで我慢したんだと先生に呆れられた。

あのときは骨盤骨折もしていたのに気が付かなかった。なんか痛いなあと、キャスター付きの椅子で移動しながら家事をしていた。

ひとり静かな台所の床にペタリと座り込み首根っこに一枚貼った。

いいところに貼れた。でもあともうちょっと下の方もカバーしておきたい。しかしそこは自分でやるときっとヨレてうまいことできない。

夫がいたら頼むのに。

やはりあの人は大事な人だなあ。

息子が降りてきた。こんな時間に珍しい。

「おはよう。早いね」

「いや、また寝る。トイレ。・・あ、俺の部屋の電気消してくれたの母さん?」

彼の部屋には立ち入らないので気づきにくいが、奴はタブレットを見ながら寝落ちする。ドアから光が漏れていたのでさっき消したのだ。

「そうだよ。一晩中じゃない。電気代払え」

「すまん」

そうだ。

「罰として湿布貼って」

シャツをぺろっと捲り上げ背中をむける。ここ、ここを覆ってくれたらどう貼ってくれてもいいからと、一枚差し出した。

へいへいと言いながらセロハンをそうっと剥がし丁寧に貼る。気持ち良いところに貼ってくれた。

それにしても朝っぱらから母親の背中に湿布を貼らされるって相当の罰かもしれない。

「お母さんが薄っぺらい体でよかったね。これでグラマーでムチムチしてるいい女だったらドキドキしちゃってできないよね」

「くだらん。親にドキドキなんかしねえわ」

いやいやいや。

ガリガリもたまには役に立つ。

背中がじわじわスーっとしてきた。気持ちいい。