できてない妻

昨日、夫が義兄と家のゴタゴタの連絡業務で夕方から会う約束があり出かけて行った。

その前に彼はひとつ片付けておきたい要件があり、朝早く家をでて、あちこち用事をすませたその足で約束の店に行ったのだった。

その時間から会うとなればおのずと流れで夕食を一緒にということになり、流れで軽くいっぱいということになるだろう。

「飲み過ぎないようにね」

「うん、遅くとも10時には帰る」

ところが10時半にラインが入る。今、横浜、これから帰る。遅くなりました。

・・・こ、こいつ。。またやりやがったな。

その前6時半ごろ、連絡があったのだ。ごめん、明日も清掃業者に立ち会うから出かけることになった。ごめんね。

そんなのいいよ、全然大丈夫。そんなことより、飲み過ぎんなよ(笑)。とスタンプを送りつつしっかり念を押す。

帰ってきたのはクマさんが腕で丸をつくったオッケーマーク。

よしよし。

からの、10時半、これから帰りますのラインに妻は怒る。

わかる。わかっているのだ。

この数日夫は忙しかった。

付き合いのない親戚が亡くなり、身寄りがないので我が家に警察から電話があった。

その後始末にかけずり回っている。

家の始末。葬儀。戒名。権利。相続。それらを一気に片付ける。

会社の仕事と並行しながらだから相当のストレスと負荷だろう。

私に八つ当たりもせず、愚痴も言わず、淡々とこなすその姿勢は健気で尊い

義兄の家には障害をもつ成人の息子がいるので、そうそう呼び出せない。

そこもふまえ、夫が雑用を義兄は大きな契約などのことをと役割分担しながら進めているのだが、どうしても夫の方に比重は多くなる。

それを当然とする彼の姿勢もまた、だれにでもできることではないと、思う。

思うのに。だ。

こんな遅い時間までお兄さんが飲んでいるわけがない。いつも奥様と交代で息子さんの介護をするので急いで帰る。きっとじゃあねと別れた後、一人で飲みに行ったんだ。

なんなの、それ。なんでそこで一緒に帰ってこないのよ。飲むなら家で飲めばいいじゃない。

カッカカッカする。

結局帰ってきたのは11時過ぎ。鍵を持たず出たものだから、門の外からインターホンを連続で何度も何度も鳴らす。外は雨なのだ。これにも腹が立つ。いじわるしてわざと、ゆっくり階段を降り、外に出た。

門灯のしたでいい気分になっている夫が両手をさっきのクマさんみたいに上に上げ、傘を上下させて振っている。

「おーい、ただいまぁ」

おつかれさん。今日はよく頑張ったんだね。ほら、早くお入り、明日もあるんでしょう。お風呂に入ってあったまってすぐ寝ないと。

・・となぜ、そこで言えんのだ、私は。

「・・てっめぇ。いい根性しとんのぅ」

「ごめんなしゃーい」

酔っ払いに怒っても空振りで虚しい。しかしどうにもおさまらず、玄関で入ろうとする夫を一旦、止め、言い放つ。

「一人で飲んでくるの、やめて。あれほど何度も言った後でそれやられると、なんだかないがしろにされてるようで、ま、いっかと軽く扱われたんだなと思う。」

「ちがうよ、ないがしろなんかしてない、軽く扱ってないよ」

酔っ払いはテンパる。かわいそうに、いい気分がいっきに引いたのか。

「・・・Bluetoothのスピーカー、買ってもらいます」

「あ、うん、わかった。ごめんね」

どう思います。これ。

どう考えても妻の方が未熟者だ。

これまでこんなこと何度も何度もあった。その度に、彼の立場を想像し、理解しようとし、わかったふうな言葉と態度をしてきた。

が、いつも燻りは残り、自分がかわいそうな人のポジションだとし、彼を責める正当性があるのだと、私は悪くないと、夫を悪者にした。

いい奥さんならこうする。っていうのを頑張ってやってるわけだら正直じゃない。

本当の姿はただの器の小さい女。

ペナルティでスピーカー買ってと口を尖らせるのが偽りのない姿なのだった。

 

今朝、夫の寝息で酒臭くなっている寝室で目覚める。

そうだ、昨日・・。

で、そうだ。スピーカー。

注文しちゃうんだもんねぇ。意義を唱えられる前にさっさと手配しよっと。

ガバっと起き上がる。

わだかまりはない。ないがしろにしないでと子供じみたことを口にしたからだ。

今日も忙しく働く彼にパワーのつくものを食べさせないとと澄んだ気持ちが湧いてる。

ああ、できた妻にはとうていなれない。