開けていく

大学時代、学内では友達を作らずずっと図書館にこもっていた息子。

彼のばあちゃん、つまり私の母はすごく心配して、

「学食でご飯食べてきたらおばあちゃんがお小遣いをあげる」

と促したほどだ。

さすがにその場で私が力ずくで却下した。

友達がいない、作ればいいじゃない、友達になりたいと思うやつがいないんだ、そんな堅苦しく構えないで気の合いそうな人と会話をするだけでいいのよ、その程度ならさすがにいる。でもそれは友達じゃない。

彼が求めるのは自分が近づきたい、学びたい、そう思える心許せる相手だった。

「そういうのって互いに成長して結果、そういう存在になるのでは」

「わかるんだ、その可能性がある人かない人かってのは」

聞きようによっては何様だと思うが、深いところまで自己開示できる相手を求めていたのだ。

群れることに背を向け続けた学生時代だった。

無理に友達をつくらなくてもいいと静観していたが、社会に出る直前、一番不安で耳を傾けそうな時期をねらい、一度だけ彼に言ったことがある。

食事や飲みに誘われたらとにかく一回目はついてけ。

相手もきまり悪い思いしたくないから、一度断られると意外とそれっきりってことあるよ。

とにかく、一度は行け。

学校と違って長いこと属する組織だから、居場所をつくるためにある程度の付き合いはしといたほうがいい。ゆくゆく自分を助けるよ。

学校の課題やレポートと違って、仕事はチームでするものだから。

いい仕事をするための環境づくりと割り切ることは打算じゃない。知恵だ。

 

入社一年目は在宅ワークがほとんどだったが、それでも昼ごはんに誘われれば交わっていた。

無口なくせにたまにポツリと呟いた台詞が、本人は大真面目なのに反し、周囲には新鮮で笑いを誘うらしく、堅物かと思ったが意外と面白い奴だと声がかかる回数が増えた。

二年目の春、ずっと我慢していた仕事の悩みを切羽詰まったあまり、先輩に相談した。

あの人なら。そう思える男性が職場にいたのだった。

この先輩が彼の突破口になってくれたように思う。

先輩が同期との飲みの席に息子を誘ってくれるようになった。

小さかった繋がりがまた一つ広がってゆく。

ビクビクしながら、世界を広げている。

その様子は言葉通り嬉し恥ずかしだが、自信がついていくのがわかる。

そしてなんと。

今日は夕方から隣の課の先輩に誘われフットサルをしに出かけて行った。

週末に会社の先輩達とフットサル。

学生時代の息子から想像もつかないことだ。

友達なんて無理して作らなくても大丈夫。

それは今も思っている。

でも。

でも、うれしい。ただただ、うれしいのだ。

感謝しかない。