動く

昨日、二人とも出社で一人の時間がたっぷりあるから、カレーの用意をして1日全部自由に使うぞと意気込んだ。

けれど映画を見に行く元気もない。

化粧品が切れているのにそれもめんどくさい。

頭はこんなチャンスそうそうないんだから、有意義に使おうよと焦っているのに身体のほうはやだーお出かけしたくない。お化粧するのもめんどくさいと主張する。

うまいこといかないもんだな。

主治医に指示されている。身体と頭が食い違うときは納得いかなくても身体採用。

散歩とスーパーの買い物だけにした。

それでも時間を気にしないでフラフラできる。それだけでもいつもと違う。

満足できた。

 

思えば知らず知らず心も体もお疲れ気味だったのかもしれない。

午後も本を広げて数行読んではうとうと。

結局なにひとつ特別なことはしないまま1日は終わった。

 

9時。息子からラインが入り、先輩と食事をして帰るという。

うれしい。誘ってくれる誰かがいるんだ。

二人分のお膳を一人分にする。夫は11時を過ぎても帰ってこない。

かわいそうに。まだ仕事なのか。

枝豆を茹でて付け足した。

先に寝るね。ごめんね。

12時。

先に帰宅した夫が門の鍵を閉め、そっちの鍵は持たずに出た息子が入れず、何度も家の電話を鳴らし、その呼び鈴で目が覚めた。

「なんで出てあげないの?」

洗面所でワイシャツ姿で歯を磨いている夫に声をかけると、言動がおかしい。

「だいじょうぶ、あれ、おはよう、だいじょうぶ、あれ、なに?」

・・・くさい。酒臭い。こいつ・・・・。

「飲んできたの?」

「いや、飲んでないよ」

息子を家に入れ、無言で枝豆をラップで包み、皿とサラダをしまい、寝た。

カレーなんだから、それほど手間をかけてもいないのに、腹が立つ。

自分が軽く扱われているようで、どうでもいいとされたようで。

私をなんだと思ってるんだ。雑に扱うな。

一晩寝て、考えた。

そうか。

雑に扱っていたのは私。ケアして欲しがっている心の声をないがしろにしていたのも私。

余裕がなくなっていたからあんなに腹がたったんだ。

午前中、外苑前の美容院に予約をいれた。

お化粧も洋服も頑張らず、とにかく行こう。行って癒されよう。

トリートメントも奮発した。

静かなジャズの流れるお店。二人だけでやっている落ち着いた空間のなか、髪を洗ってもらい、マッサージもしてもらい、あったかいタオルを首の下に当ててもらう。

どこそこのコンビニのなにがおいしいなどとくだらないおしゃべり。

伸び放題のざんばら髪も整えてもらった。

いい気分のまま、表参道まで歩く。

乾いた風。心地よい太陽。

おしゃれなお店のショーウィンドウ。街ゆくオシャレな人たち。

家にたどり着いた午後1時にはすっかり昇華されていた。

くだらないことでヘソを曲げていたと理解できる。

心も整った。

自分の機嫌は自分でとるってこういうことか。