テレビで紹介していた本を買った。
ネットで調べたら、近所の本屋では扱っていないのでわざわざ電車に乗って渋谷の大きなところまで出向いて買った。
鮮やかな言葉でアメリカで衝撃を与えた奇跡の作家。初の翻訳短編集。
紹介していた女流作家が「これを読むと自分も何か書かずにはいられなくなる」と熱く語っていた。
自分がそれを読んで小説を書き始める衝動に駆られるとは思わなかったが、それだけ魅力のある文章とはどんなものだろうと読んでみたかった。
たいてい本を選ぶときは書店で数ページ読む。言葉使いや筆者の持つ温度が馴染むものかどうか、そこで感じ取る。
長いこと、本当に読みたい軽いエッセイと、とっつきにくそうだけど教養がつくかもと課題図書のようなものをセットで買うようにしていた。
「あなたもくだらないものばかりじゃなくて、少しはこういうものを読みなさい」
母の呟きが脳内再生されるからで、そうしなくちゃますます自分はバカになっていくとバランスをとっているつもりでいたが、ある時からやめた。
だってどうしたって興味が湧かないんだ。高尚なのは。
絵画の本、歌舞伎の本、歴史の本、なんとか賞を取った作品、たいてい投げ出す。
面白いと思うのは、出てくる人物の生活や考えが見えるもの。くっきりはっきり曝け出しているもの。
感情が見えるもの。暮らしが価値観が伝わってくるもの。
だから、なんとか賞を取った作品よりも、それを書いた人の日常が垣間見えるエッセイの方が好き。
紹介されていた『奇跡の作家の短編集』は、読むと決めていたので手に取ってそのままレジに持っていった。
帰ってすぐ開く。
・・・。・・・・・。・・・・・・・。
よくわからない。描写も設定も。うまくイメージが浮かんでこない。
それでも読んでいれば何かエキスのようなものが感じ取れるかと頑張って字面を追う。
だんだんわかってきた・・気が・・する。
人間の奥底にある闇のようなものを鋭い言葉で抉り出している・・・作品・・たぶん。
つらい。
名著なんだろう。きっと。文章に風格も感じる。
でも辛い。
それでもやめられないのは、しんどい本だなあと思い、もうやめようと思って読んでいるとキラッと時々、ああ、真実だと思うような言葉があるのだ。そのキラッとしたのは辛抱強くページをめくっていると、たまに、キラッと目に飛び込んでくる。
辛いのだ。この本。固くて。
こう言うのを読み応えがあると言うのだろうか。
投げ出したい。落語家さんの書いた新刊エッセイが発売されている、そっちを読みたい。読みたい。
でも今、それを買ったら多分この本をもう開くことはない。確実に、無い。
そうしたら次、見つけるはずだったキラッとしたフレーズは永遠に私のところにはやってこない。
課題図書だ、本当に。