低気圧

見事に気圧の乱高下に翻弄されている。

昨日の朝、爽やかに目覚めた私は、今朝、やはり四時に目覚める。

重い。頭も身体もびっくりするほど重い。

昨日調子に乗って庭の芝刈りをしたのがよくなかったか。

母の「なんでもお姉さんみたいにやろうってわけには」が頭をよぎる。

悔しいが、正しいのだ。いつだって。わたしの体調に関して母が言うことは。

 

ふらふら起き上がり洗濯機を回す。朝食の用意を簡単にしておこうと冷蔵庫を開けると昨日の夕飯につけた温泉卵と大根ステーキがそのまま手付かずでラップをかけて入っている。小鍋には豆腐ともやしの中華スープもたっぷり残っていた。

夫だな。

青椒肉絲だけだと物足りないかと用意したが、夜遅くに帰ってきた食事には量が多かったのだろう。ときどき、こういうことがある。

無理やり食べてまた気持ち悪くなられても困るから、これが正解だ。

正解なのに、起き抜けの重い頭でこれを見つけると一瞬むっとする。

朝はこのスープに温泉卵をおとして、大根と納豆を食べてもらおう。

息子には半玉残っていた茹でうどんと冷凍餃子をスープにいれる。やはり半膳ほどのこっていたチキンライスにレンジで作った薄焼き卵をのせて添えた。

もう一度寝る。

こうしておくと起きた時、あら不思議。

洗濯は仕上がり、朝ご飯の用意ができている。

小人さんありがとう。毎朝数時間前の自分にお礼を言うのだ。

 

息子はお子様ランチのような朝ご飯を喜んだ。

夫はなにも言わず朝ドラをみながら黙々と食べる。

その横で私は、どよーんとした空気をまとい座っている。

 

「トンさん、あのね、これね、ちょっとさ、これなんだけど」

食後、階段を上がっていった夫がハンガーにかかった背広を持って降りてきた。

なに、やだ、来るな、来るんじゃないっ。

「ここ、これなんだけど、ちょっとほつれちゃっててさ、明日、会社行くんだけど、これ着て行こうと思ってるんだけど・・・直して」

この人は激しく勘違いをしている。何度言ったらわかってくれるんだろう。

専業主婦でお母さんで掃除洗濯料理を毎日やっている人はお裁縫も簡単にやれるものだと思い込んでいる。

料理の本を見ながらやっとこさ食事の用意をしているというのに、私を料理上手だと信じている。

私の右手は呪われているのだ。運針もまっすぐできない。ボタンもきれいにつけられない。息子はこのあたりは早くから認識したようで、幼稚園の制服のボタンがとれて帰ってきた時

「マコちゃんのママに頼まなくて大丈夫?」

と本気で私を気遣った。

園児ですら把握したと言うのに、彼はいまだ、理解しない。

「やっだぁ。まためんどくさいの持ってきた」

「どうしよ、ここに掛けておこうか」

カーテンレールにハンガーごと引っ掛けようとするのを

「やだっ、そんなとこ置いてかないでよぅ・・・自分でやればいいのに」

ひーん、お願いしますー、明日までなんで。

遠慮がちに、しかし、きっちり明日までと圧をかけて逃げた。

どんな縫い目になっても知らんぞ。

今夜はカレー。

例の、余計なこと一切しない、箱裏の指示通りにつくったカレー。

いちばん評判のいいカレー。