洗濯物を干しに二階にあがると、夫の机の上にデーンと宅急便屋さんの段ボールが乗っかっている。
「あ、机の上のそれ、会社に持っていくパソコンだからそのままにしといて」
洗面所で髭を剃っていた夫が下から叫ぶ。
なぜだか知らないが、会社から支給されているノートパソコンを持っていくのにダンボールに入れていかないといけないと言う。
持って帰ってきたときは車に箱ごと乗せてきたから、それごと返さなくちゃならないのか。もしくは勝手にそう思い込んでいるのか。
ノートパソコンだけが入っているにしてはかなり大きい。
八百屋の店先に積んであるきゅうりの空き箱くらいある。
触らない。触らないが。あの人はこれをこのまま抱えていくつもりなのだろうか。
車での通勤は交通事故を起こしてから自らやめた。
今日は特別に運転していくつもりなのか。しかしそういうところは一度決めたら守り抜くタイプだ。
納戸にある小さめのキャスターつきのスーツケースを出してみた。
ダメだ。これじゃ入らない。
いくらなんでも出社するのに海外旅行に持っていくようなのは不向きだ。
「あれ、あのまま持っていくの?」
階段を降り聞いてみた。
「そだよ」
やはり。そのつもりであったか。
夫が朝食を取っている間に、今度は浴室横にある、なんでもかんでもぶち込んであるところをごそごそ探す。トイレットペーパーやらティッシュ、大工道具、油、なんかと一緒に手提げ紙袋を入れてある。
たしか・・ここに・・・。
あった。
息子が社会人になってから洋服をよく買う。私の無印のと違って彼のいくお店はしっかりした作りの捨てるに惜しい立派なものに入れてくれる。
家に帰ってきて服を取り出してから決まって「かあさん、これいるか?」と言うのを「あ、いるいる」ともらっておいた。それらが数枚溜まっている。
その中に横に長い、肩から掛けられるほどの取手のついた、いわゆるブランドショップの紙袋が見つかった。
服や靴をいれるのになんでここまでと思うほど、上質な厚紙で頑丈な作りになっている。
「ほれ、これにいれておいき」
夫のところに持っていくとぱあっと顔が明るくなった。
「ありがと〜。ちょっとどうしようかと思ってたんだよね」
「だいたい、こういうのは前の晩に用意しておくものでしょう。」
「はーい」
「こんな大きなもの持って電車に乗るんだから、周りに迷惑だよ、ちゃんと謝りながら運ぶんだよ、嫌な顔されてもカッとしないんだよ」
「はーい。さすがトンさん。こういうとこ、トンさん、さすがだよねえ」
いや、私が特別すごいわけじゃない。
食事が済んでものんびり新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる。
「そういうとこだよ、キミ。あんな大きなもの担いでいくんだから、いつもの電車見送って次に乗るとか、あるかもしれないでしょう。早くお行き」
「あ、そうかそうか、そうだな、もう行きます」
ちょうどそこに起きてきた息子がぼそっとつぶやく。
「子供かっ」
しかし。
この世話の焼ける男こそ、我が家で一番メンタルが安定している。
それもまた、事実なのである。