なんか食欲ないんだよね
いまだ続く息子。そう言いながら週末、ジム帰りにサムライバーガーとビッグマックを買ってきたから心配はしていない。
月曜になったとたん昼食からまたそう言う。カレーの残りを小盛りで出した。玉葱を豚肉で巻いたのはひっこめた。
マックでもう復活したと思い、晩はピーマンと豚肉のオイスター炒めのつもりで準備した。そこに肉じゃがと厚揚げの煮物の作り置きを付け足した献立イメージが頭の中に出来上がっていたのを修正する。
食欲ないってのに「ま、大丈夫だろ」と、無理にこちらの都合を押し通すといつも後悔する。
ちょっと箸をつけ、もういらないと残される。冷蔵庫に中途半端な量の惣菜が貯まっていく。豚ピーマンはそっくり明日に回し、今日はなにかあっさりしたものにしてやるか。
出社している夫には息子に出すはずだった豚玉ねぎ巻きをスライドさせよう。
蒸し鶏とレタスとミニトマトのサラダにロールパンと冷凍庫からクラムチャウダーを解凍する。
自分の夕飯だけ軽めのものに変わったことに気がついて「やるやんけ」とニヤッとした。
こういうこと、できなかった。
息子が幼稚園、小学校、中学校のとき。いちばんこんなことしてやれたらよかったとき、しなかった、できなかった。
今思えば倒れる直前だったから心も身体も余裕はなく、怖いおかあさんだったかもしれない。
いつも料理をしては床に寝転び、最低限のエネルギーで家を回していた。
突然のアクシデントを言い出す息子を本気でうとましく思う時もあった。
自分の体がしんどいから、堪え性は皆無だった。
あの頃の不安そうに戸惑う顔の息子に会いに行って抱きしめたい。
ぎゅうっとぎゅうっと抱きしめたい。
「クラムチャウダー、うまい。こんなに甘やかしていいのか」
満足げに口に運ぶ。
いいんだよ。
鶏そぼろを作って朝、出すと「おれ、これ好き」と機嫌よくたっぷりご飯にのせる。
鶏の唐揚げを作り始めると大喜びする。
「こんなことでそんなに喜ぶならお弁当にもっと入れてあげればよかったよ。悔やまれる」
気にすんなと息子は笑うが、私は成人した彼に唐揚げと鶏そぼろを定期的に作る。
罪滅ぼしと、なにかを埋め合わせるつもりで。
軽めの献立にと対応したのは息子のためか、自分のためだったか。