7990円のコートと390円の握り寿司

昨日、連休最終日。夫は実兄との夕食の約束で出かけた。

私はしつこいワクチン副作用の微熱がいまだ続く。微熱とはいえさすがに三週間となると体力消耗が辛い。

クリニックの緊張と疲労をひきずって翌日の墓参りがそこに加わって、朝からなんにもしたくない。

歩いて5分のスーパーすらも億劫なのは自分にしては相当だと、ずるずるずるずる時間を潰すようにパラパラ本をめくっては閉じ、ドラマを観ては消す。

なぁんにもできない。やる気がこない。頭も体も鉛のように重い。

3時過ぎ、息子が起きてきた。

今から朝昼兼用の食事をとり、4時ごろ、二子玉川まで服を買いにいってくるという。

「これから?」

自分に夕方からショッピングに行く発想がなかったので思わず大きな声で聞き返した。

「なんだよ、6時には帰るよ。母さんはどこかいかないのか」

「かったるくて。今日はもうあきらめた」

無印良品で買いたいコートがある。それを「父さんが夕飯いらないなら、明日買ってこようかなあ」と昨夜話していたが、もうこの時間だし、またにすると言った。

「行ってこい。せっかくそう思っていたんなら買ってこい。たまには自分のために楽しめ」

言われてみれば4時過ぎたからといって1日がおわったわけではない。

もう、子供は成人だ。なにも、じっと家を守っていなくてはならないこともないのだ。

「私も行ってくる」

「そうだ、行ってこい」

お互い夕飯は自分の食べたいものを買ってこようということになった。

「残ってるワイン、飲んじゃおうか」

「父さんもうまいもん食ってんだ、飲んでしまえ」

ご飯を作らないで買ってくる。それだけでちょっとワクワクする。

日焼け止めのクリームだけ塗り、そのまんまの格好でスニーカーを履く。

早足で歩き出すと外気が顔にあたり、気持ちいい。

1日が終わりかける夕方、目的地に向かって歩く。

無印につき、決めていたコートを買い、どこもよそ見せず店をでて、そのままバスに乗る。

スーパーで小さな寿司のパックを買って家に帰るとちょうど5時半だった。

わずか一時間半の外出だが濃厚な時間だった。

そのまま風呂に入り、息子を待つ。

彼もシャツを買い、豪勢にデパ地下でうなぎを買ってきた。

ワインで乾杯。

それぞれのお盆の上に、できあいのうなぎと寿司。

ああ、楽しむってこうやるんだなあ。

三軒茶屋までの散歩。夕方の街。欲しかったコート。買ってきたご飯とワイン。

一発逆転の日だった。