飴と鞭

息子が今日から出社した。

昨日、遅い初詣に行き手を合わせてきた。昼過ぎに起きて3時過ぎに家を出たのものだから神社に着いた夕方は真っ暗で少し怖かったそうだ。

「俺が入って行ったら風が向こうから吹いてきて、神様が迎えてくれた」

「おっせえなあって出て来てくださったのよ」

一人仕事始めでやれやれといきたいところだが、もう一人残っている。

夫は三連休を合わせてとっており、10日が初日なのだ。

こき使ってやる。

年末、私が怪我をして大掃除どころではなかった我が家はあちらこちらにすっきりしない箇所がある。

そのトップが夫の机周りだ。息子は放っておいてもある程度になるとびっくりするほど見違える部屋にする。

しかし夫の方はとにかくなんでも溜め込み続ける。引き出しがパンパンで開かなくなると机の下に積み、そこも一杯になると段ボールに入れて床に積む。じわじわ増えるのでこちらもうっかり目が馴染み、まあまあと見逃していたらえらいことになっていた。

「せっかくたっぷり家にいるんだから、ここを3分の1に減らしてちょうだい」

「えー、3分の2!」

「だめ、1」

「じゃ、2分の1ならいいでしょ」

馬鹿なものだから一瞬、どっちが少ないんだっけと考える。

「だーめ、3分の1」

「わかったわかった。トンさんのことが一番大事だからね。ちゃんと言うこと聞くよ。トンさん大好きだから」

「大好きなら嘘ついて千葉まで行くんじゃないっ。いいから今日、片づけてよっ。片付かなかったら残ってるワイン、全部シチューに入れちゃうからね」

「やるやるやるやる」

大好きなトンさんに言われたからでなく、ワインのため、約束をした。

姉によると香港や台湾では露天商で言われた値段をダメもとで半額にしろと交渉するのだそうだ。

店員はダメダメと言うが、それでも粘っていると、じゃあこのくらいならと、額を負けてくれるという。

「初めが肝心よ、大きく言うとちょうどいいところで落ち着くから」

この術を取り入れた。

3分の1と言ったところできっと仕上がりは半分以上残っているだろう。

それでいい。やらないよりずっといい。

2階からどったんばったん聞こえてくる。やってるやってる。

どれどれ。

ご褒美に夫の好物のドーナツを揚げてやろう。

 

追記

夫はちょっと薬局に行っている間に肉まん、あんまんをチンしておでんのの残りと一緒に食べていた。

「ドーナツあるよ」

「ああ、明日にする」

喜ばそうと思ったのに。肉まんあんまんに負けた。