あれから。
夫はなぜか「弱ったなあ」という感じで笑っている。
息子は普通にしている。
私は。
自分でもコントロールが効かない。
料理も掃除も家事も散歩も買い物も。全く気力が湧いてこない。
ただただぼんやり窓の外を見たり動画をザッピングしたり。
頭痛と胃の痛み。吐き気。そしてお馴染みの浮腫。
しかし体調の悪さも浮腫も普段のように動揺しない。
あ、やっぱりね。体が反応したか。じゃ、無理すんのやめとこかね。
そして思う。そうだ、いつも具合が悪くなってもこうやって事務的に体調管理の情報として認識するだけでいいんだと、思う。
大きな衝撃が頭にあると、他のことは些細なことになる。
昨夜、仕事から帰ってきて夜、寒く、食事がないってのもあんまりだよなと、焼き鮭と味噌汁程度だが拵えた。
優しさじゃないと思う。そんな酷い仕打ちをし続ける女に自分がなるのが嫌だったからで、つまり私自身のため。
そしたらそれが今朝、そっくりそのまま冷蔵庫に入っていた。
「トンさん、ご飯、ごめんねぇ、外で食べてきちゃった、朝、食べるから」
ヘラヘラ近寄ってくる夫。
いちいち腹立つなあ。
鮭は隠した。さっさと自分のご飯を用意して食べる。
「あれ、あれ、鮭は?あれ?僕、何食べたらいい?ねえ、トンさん、僕のご飯」
器の小さい妻は耳にイヤホンをして、タブレットで朝ドラを見ながらご飯を食べる。
するとそれを
「トンさーん、ごめんったらぁ」
わかってる。彼がこうやってヘラヘラ感を醸しているのはなんとか日常に戻ろうと彼なりに頑張っているんだ。
が、それが逆効果で、その甘ったれた声で喋りかけられると、逃げたくなる。
夫は「あ、これ、もらっていい?これ食べるね」
と冷蔵庫の中から今晩のために作り置いておいた鶏肉と白菜のスープを見つけ、食べていた。
おおらかに反応できない自分にぶち当たり、自分にがっかり。
ズレた行動をしてしまう夫がかわいそうにもなる。
意地悪な私だ。