黒い長袖Tシャツを買いに

洗い上がった洗濯物を取り出したら息子の黒いTシャツにところどころオレンジの丸い輪っかができていた。

やってしまった。

時々やるのだ。除菌の塩素系の洗剤を使ったタオルをポイっと入れたところにうっかり衣服を重ねてしまう。

運悪く密着してしまうと、接触した部分だけが脱色してしまう。

よくよく濯いでから入れないのもいけないし、掃除に使ったものと衣服を一緒に回すのもいけない。

かなり色褪せた黒だし、もうヨレヨレだし。でも一応人のものだし。気に入っているのか、乾いちゃあこれを着てるしなあ。

息子の服は大学の頃から全部、自分のお金で買っている。

これ、どこのだ。背中のロゴを見ると禿げかけているが、無印のものらしい。

私のズボラのせいなのでお詫びに同じものを買いに行くことにした。

バスに乗って三軒茶屋無印良品に向かう。

買うものは決まっているからすぐ帰るつもりでいたのに店内はセール真っ盛り。

さっそく入り口に積んである婦人タートルネックシャツに引っかかる。

綿100%はなかなか見つからない。買いだわ。

それを手に数歩進むと今度はコーデュロイのウエストゴムの黒いパンツが2900円。昨年のデザインのもので値下げしたらしい。今年のは細畝の白が隣にあるが私は太い方が好みだ。

探してたのよぉ。コーデュロイの太畝。安い。買いだわ。

いかんいかんと紳士服に進む。

しかし途中途中、セーターだのスカートにいちいち引っかかる。

いかん。黒T、黒T。

誘惑を振り払って奥に進むが肝心のものがない。さすがにこの時期にTシャツを買い求める人は少ないようで並ぶのはネルシャツ、セーターとダウン。

どこかにないかとぐるぐる歩いて見つけたのはTシャツではなく綿のカジュアルシャツ。

990円!なんでっ。夫の普段着にと2枚手に取る。

息子もこれでいいことにしようかとチラとよぎったが家にいる時は基本、ボタンのあるものを着ないことを思い出し、やめた。

どうしよう。

手には私と夫の服だけ。これではなんのために来たのか。

あたりにはちょっと素敵なセーターやシャツがたくさんあるが、私好みのものを買っていっても本人がそれを気に入らなくちゃ意味がない。

グレーの無地トレーナーを見つけた。

黒でもTシャツでもないが、この辺りなら許容範囲だろう。ダメだったら私がぶかぶかで着ればいいかとそれにした。

思いがけず服を5着買って9800円の出費。

ま、いい買い物をしたからよしとしよう。

家に帰り、昼休みの息子にまだらにシミのできたシャツをぶら下げ見せる。

「申し訳ない」

お詫びに同じものを買おうと思って行ったらなくて、これを買ってきたと話すその前に

「あ、いいよ、それもう3年目だし。別に、大丈夫」

「いや、それでね、お詫びに・・」

「いいよ、それもう今年で終わりだと思ってたから」

でも買ってきたと広げる。

「これなら着るでしょ、Tシャツ、無かったから。代わりに」

ハイハイハイ。

別にいいのにと、特に喜ぶでもなく、黒Tを惜しむでもなく苦笑いで流された。

私はなんのために無印まで行ったのだ。

たぶん、私の本能が、今バーゲンやってるから行ってこいと強烈な指令を出したのだ。