包帯ぐるぐる

息子の手の怪我はありがたいことに「やや不便はあるものの日常生活はほぼこなせる」程度で済んだ。

「ああ先週の今頃は浮かれていた。午後に負傷するなど思いもよらず」

今朝、息子がぼやいた。

「そうそう。私も先週の今頃は美術館に行くんだって浮かれていたよ」

「それを言うな」

食後の皿を洗えない。あれから毎日「すまんのう」とニンマリ流しに置いていく。

風呂上がりに巻き直す包帯が自分ではできず「すまんのう」と腕を差し出す。

殿か。

おかげで彼がシャワーを浴びるまで私は眠れない。

夕食後、ゲラゲラ笑ってテレビを見ているところを早く入れと急かす。

「なんだよまだ9時じゃないか」

「あたしゃ、もう眠いんじゃ」

「じゃあいいよっ、自分でやるから」

と言ったところで片手でギブスを支えながら包帯を撒くなど一人ではできないと、お互いわかっているので私はそのままホットカーペットに寝っ転がり待つ。

風呂上がり、頭から湯気をたて包帯とテープとギブスを抱えニュッと差し出す。

「先程はすまぬ。やってくれ」

社長か。

 

怪我をしてきた当日、スウェット上下の寝巻きを着たところにぐるぐる包帯を巻いたら翌朝になって腕が袖口を通らない。

どんなに引っ張っても通らない。あんまりやると

「イテテテテ・・・」

こんなことで剥離骨折が複雑骨折になったらいけないとハサミを持ち出した。

「おいっ、なにをするっ」

身の危険を感じたのか息子が大きな声を出した。

「袖を着るんだよ、いいのよもういいかげん処分しないとと思ってたから」

長年着古したフリースの生地は毛羽立ち、ところどころ薄くなっている。

「ごめんなぁ」

自分のせいで余計な出費をさせたと思ったのか謝る。

「いいのよ、ちょうどいいから今日ユニクロで新しいの買ってくるわよ。あ、そうだ、念の為おっきいのにしとこうか、Lサイズなら大丈夫かしら」

すると神妙にしていた息子がすました顔で言った。

「いや、そこは普通の前開きのシャツのを買えばいいんだろう。袖ぐりがゴムになってない奴を」

「あ、そうか!おお、確かに。賢いねえ」

「何もユニクロ前提で買いに行かなくても」

言われなければまた袖口のキュッとなったのを買ってきて、またハサミを入れるところだった。