ゆみちゃん

息子の怪我騒動で前後した。ぶっ飛びゆみちゃんこと、我が母のパワフルさは健在だ。

先週のこと。

「明日からちょっと二泊ほど横浜に行ってきます。なんかね、元町に行きたいんですって。私は日帰りでいいじゃないのって言ったんだけど、どーしてもホテルにお泊まりするって効かないのよ。あ、あと、来週はまた別のお誘いで下田に行くんだけど・・孫ちゃんには言わないでね。」

夕方、やってきてきまり悪そうに言う。

コロナも落ち着いてきたかと思いきや、新種が出たぞとニュースではまた騒ぎ始めた。

そんな中旅行に行くと知れると、おっそろしい保健委員長に叱られると口止めをする。

息子からは可愛く思慮深いおばあちゃんと思われていたいのだ。

「無理よ、これだけ近くて内緒は。予防接種もしてるし行っておいでって言ったよって話すから。何か隠し事してるとうっかり余計なこと口にしないよう気をつけなくちゃならないし、頭が疲れるよ」

「ちゃんとうまく言ってよ」

「言っとく言っとく。言っとくから楽しんどいで。あ、余計なお世話だけど横浜行くならロープウェイ乗るといいよ」

「そのつもり。みんなが乗らなくても一人でも乗ってくる」

え、なにそれと返ってくるかと思いきや、よく知っていた。新しいものには私よりフットワークが軽い。表参道ヒルズスカイツリーも私は未だ行ったことないが、彼女はとっくにクリアしている。

一人でも乗る・・・元気だ。

 

「オタクのおばあさま、お元気ですよ。明日からと来週と2回もお泊まりですって」

夜、帰宅した息子に話す。

一瞬、嫌な顔をした。続けて加える。

「いいことよ、この前も小学校の時のお友達が亡くなったって。もう一人の仲良しは入院して寝たきりになっちゃったし、ああやってメソメソしないのは立派よ」

若者は友人が亡くなることが身近にあるとは想像もしていなかった。

それでも自分を励まし楽しみながら生きるってなかなかすごいことなんですぞ。

「ふーん、ま、いんじゃないの」

眉間の皺は緩んだ。

朝、行ってきます、シャッターと戸締りよろしくと顔を出しにきた母と息子が鉢合わせした。

「あら、孫ちゃん、居たの?会社かと思った」

悪さがバレたかのように一瞬固まる。

「お。楽しんでこい」

容認のコメントに顔が崩れる。

「うん、行ってくるね。気をつけるからね、人混みとか行かないから。お部屋でおしゃべりするだけだから」

元町のバーゲンを練り歩くと息巻いていたくせに。自分より背の高くなった孫を見上げ、可愛いいおばあちゃんの笑顔なのであった。