「トンさん、これ、アイロン、かけてくれたのっ?」
「・・かけたよ」
「あ〜り〜が〜と〜」
「いちいち、大袈裟なんだよ。」
ありがとうとごめんねを、照れずに口にするのはこの人の素敵なところ。だが、あんまり軽々と言うものだからつい、調子いいんだからとへそを曲げる。
今朝は朝食も用意し、出社する車を門まで見送った。
昨日、ワイシャツにアイロンをかけているのを息子が眺め
「なに甘やかしてんだよ、俺はまだ許さないからな」
と言った。彼もショックを受けていたのだ。
「あなたも適当な頃になし崩しにしなさいね。ずっと怒り続けるのってしんどいよ」
「俺は、まだわだかまる」
たぶん彼も、今夜あたりから通常モードに戻すだろう。
ごめんねぇ、ありがとう〜。連発しようと、重みが薄れようと、真正面からそう言ってくれる相手でよかった。
いつもこれでやられちゃうから、ずるいと思う時もあるけれど、あっちの方が器はでかい。
悔しいが。必要な人だ。やっぱり。
出発する車に手を振りながら、自分が浮かれていることに気がついた。
いつもの日常が戻った。
やっぱり行ってらっしゃいと顔を見て見送れるのは、ありがたいことだ。