鼻で笑われる

テレビで芸能人の家を風水師が訪れ、各部屋を見て周り問題のあるところを指摘しては、ああした方がいい、こうした方がいいとアドバイスしていた。

「ここ、致命的!ベッドの頭の位置は北がいいんですよ」

そのことは知っていたので息子のベッドは北に向けて設置してある。

しかし私自身は間取りの関係で西頭だ。

「だって試しにやってみて。北が一番落ち着くから。睡眠は大事よっ」

若い女性風水師がアップでこちらを見て叫ぶ。

その圧に押されその晩から北枕にしてみたが、ドアに頭が近くなってどうにも落ち着かない。

やっぱり西に戻そう。

しかし、一番いいと言われているところから敢えて変えるとなると若干、躊躇する。

西だって、そう悪くないよね。最悪ってこたぁないよねと、サイトを調べまくった。

西でもダメというほどではないが、落ち着きが増すので若者には向かないらしい。こじんまり落ち着いて向上心や意欲がなくなることがあるそうだ。

すると生年と性別で判断するベッドの向きというのが目についた。一般の風水と違って個人にあった位置があるのをご存知ですかと書いてある。

これだ。これで北縛りから解放されるかもしれない。

早速自分の生まれた西暦年と性別で調べると、なんとそこでは北枕はむしろ私には小吉で、西こそが大吉方位だとでた。

どうりで。本能的に落ち着くところを体が知っていたんだ。

西で大丈夫だという後ろ盾をもらって一安心した私は、よせばいいのに息子と夫のも調べた。

夫も問題なし。しかし、息子の北枕がまさかの大凶だとあるではないか。

どうしよう。

言おうか、言うまいか。言おう。知っているのに黙ってなんていられない。

その晩、帰宅した息子に打ち明けた。

「あのですね。お詫びしないとならないことがございます」

「なんだ、何やらかしたん?」

北向きが一番いいんだと思って子供の頃、ベッドを買った時に迷わずそうしたけれど実は違ったみたいでさ。生まれた年と性別で調べるっていうのがあってね、それだと北は最悪でさ。あの、北東がいいらしいよ、どうする、週末に向き、変える?

テレビをみていて自分のベッドの位置を変えたこと、戻そうと思って心配だったもので調べたらこの新たな風水を知ったこと、そこではこれまで寝心地がいいと思ってた西がやっぱり私にとっては大吉だったことを一気にしゃべる。

「それでさぁ、よせばいいのに君のも調べちゃったのよぉ。どうしよう、ごめん〜」

息子は半笑いでやや、脱力気味に言った。

「そんな枕の位置だけで俺の人生決められちゃたまらんのですけど」

あら。

「むしろこっちが聞きたい。どうしてそんな占いみたいなもの信じておいて、俺がいつも言う大丈夫かなって心配事にあんなに堂々と大丈夫って構えてられるんだよ」

「だってそれはわかってることだから。君の人生は絶対大丈夫になってるから。そこは自信あるのよ、なぜか」

「ふざけんじゃないよ、こっちはもっと事実に基づいたことを根拠に問題視してんだよ。

そんなフワフワしたもんよりこっちの方がずっと現実的だ」

確かに。

「ですよねぇ〜」

あんなに心配性な息子のこと「やべ、まじ?」と反応するかもという危惧を反し、鼻で笑い馬鹿にする。

「だいたい、俺はこれまで十何年もずっとあの向きで寝てきたが、ずっと幸せですけど。なにを今更。余計なお世話だ」

「でっすよね〜」

「どのサイトみたんだよ、それ、怪しい変なのじゃないのか?」

「ざっと並んでるのを適当に見てたから怪しいのかも。はい、解決した。よかったよかった、安心した、もうこの話おしまい」

「おいっ、そっちがくだらない話振ってきたんだろぅ。勝手に終わりにするな。あ、それからな、怪しいサイトだったかどうかとか、もうネットで確認するな」

はいはいはいはい。はいっ、もうこの話、おしま〜い。