密かに尊敬する

昨日の夜、私と夫はもう食事を済ませ、息子一人が遅れて食べていた。

・・・っち。仕方ない、やるか。

明日は夫の出社日である。

と、いうことはワイシャツを着る。

と、言うことはアイロンがいる。

・・・ちっ。

しまい込むと余計面倒になるため食器棚の脇に常に置きっぱなしにしてあるコードレスアイロンを掴んで移動する。

「お、こんな時間からアイロン、おヌシも働き者やのぉ」

息子が鯵の塩焼きを口に運びながら言う。

「イッチバン嫌いな家事なんだよっ、ダントツ一位」

「一番とか言わなくても・・」

「ほんと、イッチバンやなの、めんどくせー」

そこに夫が2階から降りてきた。

「洗面所にアイロン台があるからそれと、あと2階の納戸の入り口にあなたのワイシャツかかってるからそれ、持ってきて」

これからおめえのシャツにアイロンをかけてやるんだという恩着せがましさをのせ、偉そうに指示をする。まるで女帝である。

「あ、はいはい。あ、ありがと、アイロンかけてくれるの?ありがと、ありがとねぇトンさん」

お断りしておくと、この人こそ、先日、べえべえ「もう治すの難しいかもって言われたぁ」「どんどん浮腫んで醜くなっていく〜この先どんな体型になっちゃうんだろう〜」「精神的に時々辛くなるぅ〜、先生にカウンセリング紹介してくださいって頼んだぁ」とべそかく妻を「トンさんがどんなふうに変わっていっても僕は大丈夫だから」と穏やかになだめ、今現在も私を救ってくれている存在のありがたいお方である。

そのお方のシャツ一枚のアイロンも、こうしてふんぞりかえってめんどくさがる妻。

ありがとう、あなた。せめてこのくらいはさせてくださいね。え?そんな、お礼なんて、いいのよ、こんなことでお礼を言われたら私、どうしたらいいのっ?

くらい、言えないものか。

「っとによー、他にいっぱいクリーニングから戻ってきたのとか、アイロンかかってしまってあるのがあるのによー、いっつもあえてこのシャツしか着ないんだもん、洗っちゃぁこれだからいっつもアイロンしなくちゃなんないっ」

「だってよぉ、親父、少しは人のこと考えろぉ」

夫婦間の事情を知らない息子は呑気にツッコミを入れる。

「ごめ〜ん、そのシャツお気に入りなんだもーん」

シュシュシュシュシュ・・・シュゴー・・・。

アイロンの蒸気の音がのんびりあがる。

「ほら、できたよ、おいといで」

「ありがと〜、愛を感じる〜」

ほっかほかのシャツのぶら下がったハンガーを持って階段を上がっていった。

ああ、私にもその可愛らしさがあったらなあ。

ありがとう〜愛を感じるぅって手放しではしゃげたらなぁ。