珍しく夫と息子がそろって出社したので、それっと衣替えをした。
大きな婚礼ダンスは息子の部屋にあるので平日は入れない。
彼が不在中でも夫が居れば、ドタバタドタバタ大きな物音を立て、万が一会議中だったりすれば迷惑になるからできない。
丸々一日、自分中心に使える。天気もいい。冷蔵庫にはナスとピーマンと豚挽肉の味噌炒めがあるから夕飯の支度もいらない。
今日やらないでいつやる。
作業に取り掛かる段になって、なんとなくスッキリしたい衝動に駆られた。
ここ数日のモヤモヤを不要なものと一緒に捨ててしまおう。
衣装ケースの脇にある、みかん箱くらいの「とりあえずとっとく箱」を開けてみた。
入れたことすら忘れていたものが、ぎっちり詰まっている。
息子の高校の教科書、ノート、計画表、学校のプリントまであった。そうそう大学生活が始まる前に机周りの大掃除をしたが、その時は捨てる度胸がなく、しばらく置いておこうということになったんだっけ。
結局あれから一度も使っていない。ノートたちよ、ありがとう。処分。
母のお下がりでもらった「いいものなのよ」というカーディガン、3シーズン着てその度に「やっぱりそれ、いい物に見えるわ」と満足そうに言われたけど、実は好きじゃない。
許せ、処分。
息子の小学生の時のサッカーユニフォーム、処分。
擦り切れて色も褪せているのにとってあったシーツ、座布団カバー、処分。
もうこの際、今、使っていない衣服は捨てよう。今、なんだから。私がいるのは。
過去も未来も頭の中にあるもので、存在しない。
実際の私がいるのは、今、この瞬間のここだけ。
勢いがついた手はどんどん動く。
母のところからやってきた服はどれも好きじゃなく、着て見せないと機嫌が悪くなるから着ていたことにも気がついた。
えいっ。処分。
ちくりと心が痛む。が、不思議な清々しさ。
ああ、私はまだ、どこかで母を恨んでいたのか。
父の形見を自分では捨てきれず、母が夫にとよこした上等な買え上着数着にコート。
これもな。。。
男物の背広は場所をとる。
夫は3着は喜んで使ってくれているが、それ以外は一度も袖を通していない。これもスッキリさせたいと、重たいハンガー取り出したが、躊躇う。
躊躇うってことは時期じゃないのだと元に戻した。
大きなゴミ袋一つ。その脇のリサイクル箱に移った服の山を見ると、自分が母を傷つけている後ろめたさが込み上げる。
でもなんなんだ。嬉しいぞ。ワクワクする。
自分の中にあった毒が溶けていく。
母もマル。私もマル。誰も悪くない。タイミングと相性がズレただけ。
そしてそれも、とっくの昔の話。
はいっ、もうおしまい。
冬物を入れ直し、ちょっとだけスッキリしたタンスの引き出しを改めて見る。
自分が着たいと思う服の方が多くなった。
まだ全部切り捨てることはできない。それが現状の私なんだろう。
でも、前進した。
へこたれながら、生きている。
へこたれながらも毎日は続くんだ。
息子をこの世に産みだす直前、お腹にむかって言ったっけ。
「途中、暗く狭いところを通るけど、怖くないよ、すぐ明るいところに出るからね。」
あれは産道通過を怖れるなという意味だったけど、今の私にそのまんま言ってやろう。
苦しいところを通過してるだけ。明るいところに行く途中だから大丈夫。
今はその途中にいるからしんどいだけだよ。
大きなゴミ袋に一つ、リサイクル用の箱が一つ。
それだけ空いたスペースのぶん、私の気持ちも広がった。