おてんば

ケイコチャンと会いに出ていった母は、午前10時過ぎに家を出たっきり、遅くまで帰ってこなかった。

まったく。これがその昔「女の子は日が暮れたら家にいるものです」と厳しく取り締まっていたのと同一人物とは。

コロナの勢いが強くなっていなければ、どんな時間まででも存分に楽しませてやりたい。

しかし、この状況下、いつまで経っても帰ってこないと、油断しまくってどこをほっつき歩いてんだと心配になってくる。

 

私立に通っていた姉は部活と電車通学と母の管理に収まらなかった。

「あの人が一生懸命封じた蓋の鍵がかかっていなかったんだもん」

と姉は言う。

「あなたの場合はあれは無理よ。鍵をかけてその上チェーンまでかけてたからね」

本当にその通り。夕食の時間には家にいることというのが私への決まりだった。

なので当然そんな教育をしてきた母なら、そこら辺を踏まえ、このご時世だし、夕方には帰るであろうと思っていたらいつまで経っても帰ってこない。

私はヤキモキしながら庭に出て草をむしる。

電車が混み合う時間になるじゃないのよ、もう。

とっぷり日は暮れ、手元も暗くなったので家に入った。

風呂を掃除し戻ると隣の家の玄関が静かに、それは静かにカチャッと閉まる音がした。

帰ったのね。

時計を見ると7時ちょっと前。やれやれ。

ここで何か言おうものなら膨れるのであえて放っておいた。

翌日も放っておいた。

今朝、母がやってきた。

「今日はこれから本当のお医者さんに行ってくるわ」

足の腱が腫れている。

「急になのよ、内臓のどこか悪いのかもしれないと思って」

そこですかさず娘は言った。

「歩きすぎなんじゃないのではないでしょうか。デパートの」

「あら、早く帰ってたのよ、5時には家にいたのよ」

嘘をつくんでない。

「部屋は真っ暗だし、シャッター閉めに行こうにもみんなが家にいるからそういうわけにもいかないし。ドキドキさせないでおくれ」

「ふ。次からは家の灯りをつけたまま出なくちゃ。遅くなってもいいように」

悪びれない。

「あ、今週末、今度はお姉さんとね、美術展に行ってくるから。予約が取れたらだけど。お姉さんに誘われたから、またトンにうるさく言われるわって言ったんだけど」

「デパートを丸一日練り歩くよりはずっと安心です。反対なんかしませんよ。」

まだ決まったわけじゃないけどねと、帰っていった。

頼むよ、母さん。大人しくしててくれぇ。