天使が負けた

「あれ、なんか、まともになってる」

やはり気づいたか。気づくよなあ、そりゃ。

「うん。よぉく、今度の炊飯器をじっくり眺めて、考えられる原因を排除し、ちょっとやり方を変えてみた」

嘘ではない。

「ほぉ。親父を庇おうとしてんだな。この炊飯器が悪いんじゃないと証明してやろうと」

「そんなんじゃないよ」

「照れるな」

席をたち、炊飯器の内釜を外して持ってくる。

「あのさ、これが今日、使った横線。で、こっちが昨日までの。ちょっと変えてみた」

なに?どう言うこと?何が違うのと言う息子に

「わからなければそれでよい」

「なになになに。何が違うんだよ、あっ、あぁっ!これ、玄米じゃんっ」

「ですよねぇ」

「久しぶりにおっちょこ発動だな。笑える」

夫に白状するのが悔しいとこぼすと

「黙っとけ。そもそもこんなややこしい炊飯器を買ったあの男が悪い。」

ゲラゲラ笑いながらそう言った。

夜遅く、久しぶりに出社した夫が帰ってきた。

「あれ、お米、また変えた?」

「変えてませんよ」

「なんか、おいしくなってる」

「水の量を変えてみました。お米は同じだよ。」

「あれ、そうなの?研究したの?美味しいね、掴んだんだ、新しい炊飯器のコツ。」

「目盛りがね・・・」

息子にした説明をもう一度しようかとチラッと思ったが、悪魔が天使を歯がいじめにした。

「ね、やっぱりお米のせいじゃなかったでしょ」

嘘は、ついてない。・・・と、思う。