真犯人

炊飯器、評判が悪い。主に息子に。

届いた当日は確かに「うまいじゃねぇか」と苦笑いしつつも、味のグレードアップを認めた。

が、その翌日の夕食あたりから

「なんか今度の炊飯器、もちもちしすぎてる。前の方がよかった」

と言い出した。

あらら。十何年ものオンボロで炊いた硬いご飯に味覚が慣れきってしまって、圧力炊きの美味しさがわからなくなってしまったのか。

「貧相な舌を時間をかけて馴染ませていかねば」

「違うって、絶対、前の方がよかった」

ムキになるがそんなはずあるわけがない。

何しろ、うん倍もの値段のする最先端のものらしいのだから。

しかし、その衝動買いをした張本人までもがとんでもないことを言い出した。

「トンさんさ、お米、変えたでしょ、だからじゃない?」

なんですと。米櫃にはなに一つ入れていない。届いた日から同じものに変わりない。

実のところ、私もなんか、柔らかいなあとは思っていた。圧がかかりすぎて馴染めないのかと極早炊モードにしてみたりとこっそりやってみていたが、断じて米はそのままだ。

「あー、炊飯器の評判が悪いもんだから、お米のせいにするわけだなぁ」

「違う違う違う、でも届いた日のご飯と違う感じがする」

「それで私のせいにするってわけでございますの」

「違うってぇ」

「なんだよ、親父が変なの買ったからだろ、そもそも壊れてもいなかったのにヨォ、テレビに踊らされて」

「違うもーん」

大人3人の家族とは思えない醜い罪の擦り合い。

「まあ我々庶民の口に理解できない旨みなのよ、きっと。そのうちこれじゃないとってなるわよ」

あれから三日。

届いた日から換算すると五日目の今日のたった今。

夕飯の支度をしようと炊飯のセットを始めた。

あぁ今日も餅のようなご飯になっちゃうのかなあ。線のところより水の量を減らしてみようかなあ。

目盛りの線をぼんやり眺めていた。

ん?

内釜には玄米、雑穀、無洗米、お粥、それぞれに合わせた水分量を指し示す横線が入っている。

なんかずいぶんたくさんあるわね。

前使っていたのは、お粥モードとお米モードの二つ。そして左右対称に同じものが刻まれていた。

今度のもそうだとばかり思っていたが、よく見たら違う。

左右対称ではなく、それぞれ違う水分目盛りが何種類もあるではないか。

そして初回こそ夫がいそいそ内釜をセットしたが、その次から米をセットしていたのは私。

その私がいつも目安にしていた横線の上を恐る恐るたどっていくと、なんと玄米とあるではないか。

つまり、普通の米を玄米の水分量で圧力炊飯していたのだ。ずっと。

念のため、無洗米のを見ると明らかに、数ミリ下にある。

どうりで。もちもち、ねっちょりするわけだ。

ドキドキしながら正しい横棒の線に水を張り、スイッチオン。

これで真っ当なご飯だったら、犯人は私ということになる。

ぴっぴろぴっぴろぴー♪

急いで釜の蓋を開ける。

こ、米が。お米が。

・・・立ってる。

しゃもじで小さく掬い、手のひらに落とす。

ハフハフしながら口に含む。

程よく柔らかいが、べちゃっとしていない、あの日、あの晩、初めて炊いた日のご飯だ。

・・・やっばぁ・・・。

今夜、彼らはきっとおいしくなったご飯に気づく。

そして問うであろう。どうしたの。何か工夫したの。と。

さあ、そこで問われるのは、工夫の技でははい。問われるのは私の人間性だ。

白状するか、しらばっくれるか。

迷う〜。