炊飯器が届いた。
「えっと引き取りがあります」
え?あ、今日か、確か土曜日って、なんかそんなこと言ってたっけ。慌てて台所にある炊飯器を開ける。
中には今朝炊いたばかりのお米がまだたっぷり入っている。
今日届くと言うのをすっかり忘れていた。仕方がないので内釜だけ抜き取り、外っ側だけを玄関に持っていった。
「剥き出しでいいですか?」
「いや、できればぁ・・何か箱に・・」
「じゃあこれに差し替えでもいいですか?」
持ってきてくれた炊飯器の入っている段ボールを見てそういうと
「あ、いいっすよ。お客様がそれでよければ」。
急いで開けようとするがテープが頑丈で開かない。
やりましょうかと、宅配さんが助けてくれた。
「すみません」「いえいえ」
ぺろっと開けてもらった箱からようやく本体を取り出そうとするがこれがまた、箱にひっつけているんじゃないだろうかと思うほどびくともしない。
「やりますか」
「申し訳ありません、お手間取らせて」
随分前にこの制服の宅配業者はノルマと出来高歩合で給料が決まると聞いた。
確かに、いつ見かけてもこの会社の配達員はトラックから降りるや否やものすごい勢いで走り回っている。
こんなところでモタモタ時間を使わせちゃ申し訳ないと、焦れば焦るほど、うまく抜き取れない。
「すごいしっかりはまってますね」苦笑いしながらもさすが力持ち、さっと引っこ抜き、保証書と説明書を
「これは大事ですよねぇ」
と笑って手渡してくれた。
「いいっすかね、あとなんか大事なもの、残ってないっすかね」
もう一度空になっている中身を確認してから、古い炊飯器を入れ蓋をした。
「じゃ、ここにサインを。じゃ、これで、どうもありがとございましたっ」
内釜を抜いた古い炊飯器の入った箱をヒョイっと抱え、出ていった。
窓から見るとタタタタっと庭をかけている。
やっぱり急ぎたかったんだ。
なのにちっともイライラもせず、余裕の笑顔で優しかった。
立派な人ってこういうところにこっそりいるんだよなあ。