呪いの言葉を夫の力で浄化する

母のところに生協から届いたものを届けに行く。

「みんな家にいるの?」

うん。

それから先日、女子高生が窓から飛び降りた事故のことに話が移った。

とても頭のいい学校での悲しい出来事だ。

「それがあったから、なんだか仕事で考え事があるみたいな息子につい、『とにかく生きていればいいんだから』って言ってしまったよ。別に悩んでいるわけでもないのに」

最近、なんだか何度もこんな考えが浮かぶ。

うまく器用にできない自分への慰めか、それとも開き直りか。

誰もが存在しているだけで意味がある。

この世にいる生き物はみんな意識していないところで、誰かを、何かを、支えるようにできているんじゃないだろうか。

「そうね、やっぱりね。あの子は悩むと思うわ、会社で」

私の意図とは全く違うところから返してきた母の言葉に引っかかる。

「なんであの人が悩むの」

「だってほら、あの子の性格じゃ」

「悩んではいないのよ、私が勝手にそう言っただけで。ちょっと考え込んだりはしてるけど」

強めに否定した。

「あらそ。でもいつかきっと悩むわよ、あの性格じゃ」

どの性格じゃ。

「大丈夫よ、あの人なんだかんだ言っても立ち回りは上手いなと思うもの。伊達に靴隠されちゃいないって本人も笑ってるよ」

高校時代、辛い経験をしたが、その時も彼は強かった。

そうなの、それならいいけどねと言いながらもそう思っていない様子の母をたちきり、家に戻った。

モヤモヤする。消したつもりが消えてない。もっとしっかり打ち消したい。

きっといつか悩むわよ

呪いのように頭に残る。

情けない、母の言葉のパワーにまた、縛られそうになっている。

そこに夫が昼ごはんを食べに降りてきた。

「今さ、お母さんが息子のこと、今にきっと会社で悩むって言ってたから、あの人は大丈夫って言ったのよ。あの人確かに気難しいところあるし、繊細すぎるとこもあるけど、根は結構強いから平気だよねぇ」

一気に言った。

「そうそう、あいつ、結構したたかなとこあるんだよ、な、負けてないんだよな」

ゲラゲラ笑う夫の屈託のなさに「だよねぇ、あいつ、結構やるよねぇ」と一緒に笑った。

声を出して笑って、完全に吹き消した。

よかった。いいタイミングで夫がきて。