課題図書

行ってきますと庭を歩いて横切る息子の手に白いA4サイズの紙袋がぶら下がっている。

「読み終わったんだ」

ん、と小さく笑って出ていった。

会社の先輩から借りた漫画が入っている。

映像と音楽の制作を担当する部署に配属になった彼がズーム飲み会で世間話をしていた時に、話題に上がっていたコミック作品を読んでいないと言うと、その先輩がひどく驚いたそうだ。

「え、ジャンプはバイブルだぜ、読んだことないの?、じゃあ今度貸してやるよ、読んでみな、絶対面白いから」

と言われ、早速その次の出社日に重い紙袋を渡された。

「ごめんな、1巻から5巻は貸出中で6巻からなんだけど、話はわかるから」

17巻までの課題図書ができたのだった。

「でも、俺テイストじゃないんだよな。血がドバッとか、怪物が人を喰うとか、今ひとつのれない」

そう言いながらも、適当に話を合わせて実はちゃんと読んでいないことが、会話の中でわかるんじゃないかと気を遣いながら話す方がストレスになると、1ページも飛ばさず丹念に読む。

毎晩仕事が終わってからと、週末に、ああ間に合わないと焦りながらも読み込んでいた。

「あなた、学校の勉強の時だってこんなに真剣に参考書読まなかったわよねぇ」

漫画って一冊何分で読めるだろうと、計算し「終わらない終わらない」という息子に笑って言った。

結局、最初予定していた返却日に間に合わず、延長してもらい、今日、やっとお返しに上がるというわけなのだ。

「面白かった?って聞かれたらどうするの?」

「うーん、イマイチ!・・・って言うわけにもいかないしなあ。でも調子良く面白かったですなんて言うのも俺のセンスが許さない」

俺のテイストを妥協して合わせるわけにはいかないと、こちらも譲らない。

 

どっさりコミックの入った袋のやりとりを見ていた、さらに先輩が

「おいおい、パワハラじゃないだろうなぁ、大丈夫?」

と笑っていたらしいが、そうやってコチコチの新入社員を仲間に入れようと構ってくださる皆さまが、母としてはありがたい限りです。