お楽しみはとっておくタイプ

「ね、庭、綺麗になってるの、わかった?」

朝、シャッターを開けた夫に台所から呼びかける。

「わかる。これはすごい。すっかり綺麗になったね、トンさん頑張ったでしょう」

心得ていて、大袈裟に感動してみせる。

「ああ、そういえば・・・」と気のないコメントをしたため妻の逆鱗に触れた学習効果が今、発揮されている。

そうなのだ。結局昨日、せっかくの丸々お一人日和を私は庭の芝刈りに使ってしまった。

午後、お盆に昼ごはんをセットし、さぁてと、窓の前に座ってタブレットでドラマを観ながら食べようと腰掛けた。

その位置がいけなかったのか、ぼんやり窓の外を眺めパンを齧っていると、うっそうとした芝とその合間にちょぼちょぼ生えている雑草とが気になる。

さあっ楽しむぞって気分をそぐ、景色なのだ。

こんなウキウキ気分の時は、そよぐ風、陽の当たる気持ちの良い庭・・・で、あってほしい。

ちょっとだけ。

舞台背景を微調整するくらいのつもりで食後、窓から降りた。

ちょっとだけ。

もうちょっと。

もう少し。

ここもついでに。

ここで終わりにしよう。

実を言うとこの数日絶不調だったのが、昨日に限って梅雨の晴れ間のように調子が良かった。

ドラマはいつでも観られるけれど、体調がいいこのチャンスは次いつ来るかわからん。

チャンスを逃すなと脳が指令したのだった。

3時過ぎ、庭はすっかり整いこざっぱりした。

引き換えに体力はすっかり消耗し、もう今日はいいやと、ドラマを観る気力も失せていた。

夕飯の用意をし、風呂を洗いながら「もったいないことしたなあ」と思う。

が、不思議とその日の成果と行動に納得はいき、後悔はない。

貧乏性だと家族は笑うが、何かやらなくちゃと思っていることが残っていると、それが気になって集中して楽しめない。

ドラマも、昼寝も、読書も、ダラダラするのも。

もう、明日から大丈夫。

でもなあ。一人時間も次いつ来るかなんだよなあ。悔やまれるのはそこだけなのだった。

芝居がかった大絶賛を済ませ窓の外を眺める夫に、ダメもとでそれとなく聞いてみた。

「次、出社、いつになるの?」

するとくるりと振り向き、ハの字眉毛の両端をさらに下げ、気の毒そうに私を見て答えるではないか。

「ごめんねぇ。ちょっと立て込んでて、今週の金曜、また行かなくちゃならくなっちゃった」

今週、息子の出社日は水曜と金曜だ。

なんということでしょう。

昨日、頑張って良かったなぁ。神様からのご褒美かなぁ。

とたん機嫌よくニンマリしそうなのをまた、こっそりしまう妻なのであった。