気をつけねば

最近、ほぼ毎日海外ドラマを観ている。午後、家事が終わるといそいそとタブレットを広げる。

かなり長いこと鬱っぽく、ドラマに集中する気力もなかったので喜ばしい変化だ。

朝目覚め、あ、そうだ、今日もアレ観ようっと、と思う。その瞬間、ちょっとだけ気分が弾み、その日が楽しく回り出す。

シカゴ・ファイアという、消防署を舞台にした話なのだが、このシリーズは6まで配信されており、また同じ街と登場人物達がリンクされた警察物、病院物の作品もそれぞれまたあるものだから、まだまだ当分楽しみはなくならない。

無気力だったときは、感情がなかった。

なにもおかしくない、腹もたたない、そのかわり些細な事に悲しくなり落ち込む。

表面上は付き合いで笑ってみるが、正直それすらも煩わしかった。

気持ちが元気になってきたのだろう。

ドラマの中に出てくる嫌味な奴に腹をたて、そいつが窮地に追い込まれるとスカッとする。

同時にそんな意地悪な自分に気付き、ガッカリする。

これが本来の私か。

家族の我儘に対し、いちいち主張するのも疲れるし、きっとそれなりの理由もあるんだろう、めんどくさい、まぁいいやとしてきた。

体調がよくないときは尚更、闘う気力もないから余計、まあいいや、まあいいやを繰り返すうちに「私って意外と辛抱強いんだ」と思いつつあった。

「母さんたまにはちゃんと怒れよな」

息子にそう言われ、ますますその気になっていたが、違った。

エネルギーが出てくると、ドラマの中の不貞者にイラつくとは。

がっかりだ。身体が元気になって顔を出したのは、好戦的な己の魂。

今日なんか最低だった。

作中、火事場で助けを求める人々の中、一人一人順番でないと非難させられない状況で、消防士が「女性から順番に助けるから落ち着いて待ってくれ、さもないと、この板が重みで落ちる」と大声で説得しているのに、ある男が我慢できず「俺も助けろ」と救助中の女性のところに割り込んだ途端、板が崩壊し、下にいた消防士が下敷きになった。

男は助かりたいとしがみつき、その結果、惨事の中更なる惨事を引き起こしたのだ。

「ほっらぁ。もう、どうして待てないんだ!」

これがその時私の頭に浮かんだ言葉だった。

優しさも思いやりのかけらもない。そうだよね。助かりたいよねと、どうして思わない。

これが私か。

これまで辛抱強く見えていたのは、気力のなさからくる省エネモードだっただけか。

ドラマにこんなに熱くなるのは数年ぶりのことで、自分にまたそんな感情が湧いてきたことは、嬉しい。

が、気をつけないと、知らず知らずこれを直接、実在する目の前の人達にぶつけてしまうのではないか。

特に夫に。一番感情をぶつけやすい相手だ。要注意。