日曜の朝、夫が起きてこない。いいのだ。まだ寝ておれ。
朝食は一人でのんびり食べたい。テレビの前の文机に、お盆ごと食事を乗せて持ってきて、気ままに食べる。
番組をさっさと変えてもどこからもブーングはこない。
食べ終わり、テレビも消す。
洗上がった洗濯物をハンガーにかけ、二階に上がる。寝室を横切りベランダに干すのだ。
ドアを開けると夫は起きていた。ベッドの中からスマホを眺めながら「おはよう」と言うが起きる気配はない。
「おはようございます」
ございます、と私が言う時、たいていそこには不貞腐れが含まれる。
「ええ御身分じゃのう」
「ヒーン」
自分の食事が済むと、途端、まだ寝ている夫が面白くなくなる身勝手さ。
食べ終わったくらいのところで、階段を降りてきて「おはよう」というのが望ましい。
「腰、どうだ?」
昨日、突然、腰骨のすぐ上のところがピンポイントで痛口なった。
結石の時と似た痛みで、座っていられず、一日中横になっていたのだが、今朝は全く痛くない。
目覚めてすぐに思い出してくれたことに「ふふん」と思っているくせに妻は突っかかる。
「寝ながら大丈夫かって言われてもねぇぇぇ」
治ったわ、気にかけてくれてありがとう。そう言えば可愛い奥さんでいられるものを。
「ヒーン。あんまり働きすぎなさんなよ」
「じゃ、代わりに働いてくれんのか」
「ヒーン」
そう言いながら布団に潜り込んだ。
ここで、慌ててベッドから抜け出しご機嫌取りをしたり、せっかく心配してやってんのになんなんだと怒り出したりしないのが、彼のいいところだと、近頃つくづく思う。
こののらりくらりこそ、私たち夫婦の平和の要なのだ。
妻の嫌味もお構いなしに、それから一時間ほどしてようやく夫は降りてきた。
「おはよう〜」
「おはよ。ご飯、そこにセットしてあるからね」
お、ありがと、と言いながらも、そこ、がどこかも見向きもせずテーブルに向かい新聞を広げる。
ここからがまた長い。
さっさと食べてしまえばいいのに。遅く起きてきたんだから。
一通り読み終わるとテレビのリモコンを片手に朝のワイドショーを見始める。
ふふ。ふふふふふ。
何がそんなに面白いのか、首をやや前に落とし画面を見つめ笑う。
とっとと食べろ。食べやがれっ。
妻の念も察することなく番組が終わるまでたっぷりくつろぎ、ようやく椅子から立ち上がった。
「えっと、これ?トンさんこれっ?これ僕これ食べていいの?」
「そうだって言ったじゃんっ。さっきそこにあるよって指さしたでしょ」
刺々しい声に「何怒ってんの?」でもなく、また次に始まった番組を観ながら納豆ご飯をかきこみ「ん、おいし。美味しいよ、トンさん、ありがとね」と、視線はテレビで、また「ふふふふ」と笑う。
幸せそうだ。
なんか悔しい。
この人は鈍感でいいなあ。
妻がカリカリしていようが、なんだろうが、彼の心の中に波は立たない。
チャプリとなんか、今、水しぶきが跳んだなあくらいのものなのだ。
・・・チャブリともしていないかもしれない。