そんな日もある

「11時まで家で片付け物をしてるから、仔猫、見にこない?」

近所の友人がLINEをしてきた。

先日も写真を送ってきて、見に来る?とあったのだが、しんどくて「家にいるわ」と断った。

一昨日の夕方、「もやし、いる?賞味期限切れのをたくさんもらっちゃった」と言うのを、やっぱり会うのが億劫で「もやし、今たくさんあるからいい、ありがと」と断った。

本当は、もやしは冷蔵庫に一袋だけ。たくさんなんて、嘘だった。

今朝、昨日の夕方「小松菜、いる?」ときていたのを見つける。

慌てて、気がつかなくてごめん、とだけ返した。小松菜にはあえて触れなかった。

それに対しての返事が「11時までいるから仔猫を」なのだった。

体調は良くなっていたが、めんどくさい。午前中のうちにやっておこうと作り置きを仕掛けたところでもあるし。

しかし連日断っている流れからさすがに「行かない」とは返せず「じゃあ10時半ごろにちょっとだけ行くわ」と返信した。

ところが今度は彼女の方からの返事か来ない。

迷ったが、10時半にインターフォンを押した。

彼女は屋根裏部屋で断捨離の真っ最中だった。片付け物とはこれか。

「ちょっとその辺にいて」

「あ、いいよいいよ、すぐ帰るから」

 

仔猫は寝ていた。

生協のチラシを見ながら向かい合う。

「息子は会社慣れた?」

「うん、みんないい人たちだって喜んでる。ありがたいことだよ」

「ま、最初はみんな、猫かぶっているからね。息子もそうだろうしね」

せっかくよかったよかったと安堵しているのにザワザワすることを言う。

話を逸らしたく、チラシにあったバラ凍結の挽肉を指して

「これ、便利よね」

と、呟いた。

「あ、それ、私、使わない。美味しく無いもん、やっぱり冷凍はまずいよ。挽肉は生って決めてる」

う。

いつもなら私はこんな時、ポリシーも何もなく「そうか。やっぱり生の方がいっか」と頷く。

さも、次回からは自分も注文するのはやめることにしたかのように、自分を引っ込め、彼女をたてる。

どうでもいいことで対立はしない主義なのだ。

でもどういうわけか、今日は自分の意見を貫きたい気分だった。

もやしがたくさん、のようなどうでもいい小さな嘘を重ねたくなかった。

冷凍の挽肉を使う自分を恥じているように演じてみせることないじゃん。私の中の私が私を突っつく。

「そう?私、結構便利でよく使うよ」

・・・・。沈黙。

しばらく間があって

「ま、好みはそれぞれだからね」。

それからもらった小松菜を冷凍するというのに対し「茹でてからじゃないとダメだよ」と言うのでまた反論した。

「今朝のテレビで生のままで大丈夫ってやってたよ」

「ダメ、一回茹でてからじゃないと。美味しくなくなるよ」

いつものように「あ、そうなの」でもよかったけど、貫いてみたかった。

「いや、袋の空気を抜いて冷凍して、そのまま出汁で調理すれば味がよく染みて美味しいんだってよ、冷凍で細胞が壊れるかららしいよ」

「美味しくないよ、ま、そうしたければすればいいけど、美味しくないから、生のまんまは」

・・・。

ほうれん草は茹でるときに塩を入れる、入れないでまた意見が分かれた。

私は入れない。彼女は入れる。

「お醤油かけるのに?」

「だってうち、鰹節かけて食べたりなんかしないもん、お浸し、しないから。いつもベーコンと炒める」

「あ、それウチもやる。美味しいよね。卵も加えたりして」

「卵は入れない」

あ、そう・・・。

「悪いけど、11時から用事があるからそれまでに帰ってね」

「あ、うんうん、もう帰るよ。ごめんごめん」

呼んでおいてごめんねと彼女は言った。

いいよいいよ、ごめんごめん。

家を出た。

なんか噛み合わなかったなあ。

やっぱり柄にもなく自分を貫いたのがよくなかったかなあ。

モヤモヤしたまま帰りたくなくて、そのままスーパーに向かう。

豚ひき肉を買った。小松菜を細かく刻んで挽肉と甘辛くそぼろにするっていうのがクックパッドにあった。

挽肉は生じゃないと。

はいはい。小松菜も生冷凍はしないでちゃんと使います。挽肉も生を買いました。

勝ち誇った彼女の顔が浮かんでおかしくなった。