夫がいよいよ、本当に、ついに、帰ってくる。
最終日の朝だというのに、薬の影響で強制的に5時に目が覚める。
1時、3時、4時にトイレに行って、それからの5時なものだから身体と頭はぐったりなのに、ベッドから降りるともう、眠れない。
カーテンの隙間から明るい光が入り込んでいる。
いくらもう一度布団をかぶって目を閉じても、神経が冴えてしまって睡魔がこない。
仕方ない。起き上がり洗濯機からタイマーで洗い上がっている服を取り出し、ハンガーにかける。
カーテンを開けると、もう完全に私の1日は始まる。
今日が最後なのに。息子も仕事が休み、こんなのんびり自分だけの朝。
そういえばこの二週間、何も特別な事をしなかった。
最後に何かいつもと違った事をしたい。
山盛りのキャベツの千切り、オムレツ、ミニトマト、サニーレタス、それとカッテージチーズにクラッカー、いちごジャム、マグカップをお盆にセットして、家を出た。
ちょっとだけ、ぐるっとしてこよう。
家のまえの緑道をまっすぐ進む。
ランドセルを背負った小さな子が母親と手を繋いで歩いている。
そうか、土曜だから学校があるのか。
横断歩道のところでは黄色い旗を持った校外委員のお当番が両手を広げて立っていた。
懐かしいなあ、私もあれ、よくやったなあ。冬は辛かった。
通学路を逆方向に曲がり、横道に入ると、またあちこちから手を繋いだ親子が何組も挨拶しながら歩いてくる。
最近は低学年はこう言うことになっているのか。
道端の掲示板に、サッカークラブの会員募集のポスターが貼ってあった。
息子が在籍していたとき、役員だった私が作ったものだ。それがそのまま今でも使われている。
次の人に引き継ぐときに一応、全てのデータを入れたCDを渡したのだった。
なんだか恥ずかしいような、ちょっと誇らしいような。
車の走る大通りに出た。あんまりはしゃいで歩き回ると疲れるからそろそろ戻ろう。
右に曲がり、まっすぐ進み、コンビニに寄る。
別に何か必要なものがあるわけでもないが、特別感を高めるため、入った。
店内は朝食を買う、ジョギング帰りの人たち、出勤前の人たちで賑やかだ。土曜だからだろう。ジョギング組が加わっていつもより客が多いのだ。
顔みしりの店員さんが商品を陳列しながら大きな声で「おはようございまーす」と言っている。
この人はお喋りが長い。見つからないようにそっと隠れた。
せっかくなので息子用に「たんぱく質が取れるサンドウィッチ」とウィンナーを買う。
鶏胸肉とゆで卵、レタスが挟まっている。
さ、帰ろう。
なんだかたっぷり大冒険をした気がする。
携帯にある歩数計を見たらたったの1700歩だった。
こんなものか。
それでも気が済んだ。
朝食前の散歩。これで私の春休みはおしまい。