自己満足

外に出た。

義務感からでも修行でもなく、どう考えても外に出たい気がしていたので、出た。

昨日よりさらに穏やかな天気の土曜日。

こんな日は近所の大きな運動公園の桜の下を歩くのが気の利いた過ごし方ではないだろうか。

お花見がてら買い物ってお洒落な気がする。

行きがけにコンビニに寄る。息子の昼にサンドウィッチを買って帰る約束をしたのだ。

店内はいつもより華やいでいる。花見帰りと、これからの人達がお惣菜やお弁当、お菓子を買いに来ているようだ。

春だ春だ、桜だ花見だ。

出不精の私でさえ、外に出たいと思うのだ、世間の皆さんも陽気に誘われ出てくるに決まってる。

チキンサンドを手にする。ふとその横にあの有名な『金のハンバーグ』があるのが見えた。

そこだけごっそり減っている。

おお、これか。持ってみる。ずしりと重量感がある。試しにその隣に並んでいた普通のデミグラスチーズハンバーグを持ち上げてみた。

薄くて軽い。これだって充分美味しいもののはずなのに、さっきの重さを感じた後だと、こっちはチャチなもののように思ってしまう。

買おうか・・・。なんだかしんどくてやる気が起きず、今日、ご飯作れないかもとさっき息子に言ったばかりだ。

「店屋物にするか?なんでもいいから楽をしろ」

その流れでのこれ・・・。神の啓示・・・。

それも持ちレジに並んだ。

テレビでもラジオでも「びっくりするぐらい美味しい」と評判の金のハンバーグ。きっと夫も息子も大喜びするだろう。

チキンサンドとハンバーグをぶら下げ、歩きながらなぜか晴々としない。

これと、ポテトサラダ、お味噌汁?スープ?コーンスープは朝、出しちゃったしなあ。野菜たくさんのお味噌汁・・・せっかく洋食なのに・・。

頭の中で食卓に並べる皿をイメージする。何か一つでも自分で作ったものを添えたい。

ハンバーグならこの前、フライドオニオン使えば簡単に作れるレシピ、あったよなあ。

これ食べた二人が美味しい美味しいって言った時、コンビニのだよって言いたくないなあ。

私が作ったことにしてすらっとぼけちゃおうか。

それはダメだ。だって次、またあれ作ってって言われても作れない。

・・・・。

やっぱり何か作ろ。

ああ、じゃあこのハンバーグはいつ、使うんだ。

 

美味しいってわかっているのに、買っちゃったっていうのに抵抗があるのは、手抜きをしたくないからではない。

私が作ったものじゃないのを美味しい美味しいと喜ぶ二人を想像すると、なんか、こう・・。

悔しいのだ、おそらく。

こっそりできている市販のタレを使って焼いた生姜焼きを「今日の肉、すんげえうまい!」と言われた時の複雑さと同じで、なーんか、負けたような気になるからだ。

そのまま道なりにある大型スーパーに入り、鳥モモ肉を買う。

カレーだ。こんなときはカレー。

レジを済ませ店を出た頃にはすっかり花見気分は消え、早く家に帰りたかった。

公園はいいや。外の風にあったって歩いたら満足したし。

 

家に帰り、そのまますぐカレー作りに取り掛かろうとするが、やっぱりしんどい。

それでもアレは使いたくない意地っ張り。

あ・・・。

そうだ、こういうときのための作り置きじゃないか。

もったいながって仕舞い込んだままのがあったはず。

冷凍庫をごそごそ探ると、ミートボールのトマトソース煮込みが出てきた。

これだ。これなら、私が作った。私作の手抜きだからこれなら納得がいく。

金のハンバーグの消費期限を確認すると4月11日だった。

よし、これは次のお医者さんに行って疲れた日のため用に取っておこう。冷蔵庫の奥に入れる。

衝動買いをした方にも無理矢理言い訳がついた。

こうしてなにも知らない我が家の男たちは、とても美味しいハンバーグを今晩食べ損ない、何日も前に作られたミートボールを食べさせられる羽目になったのだった。