未熟主婦

豚挽肉がグラム100円だったのでつい、買ってしまった。

大きな鯵の干物が2枚298円だったのでカゴに入れていた。振り向くと発泡スチロールに丸一匹の鯵が氷漬けになってひとつ、100円だった。

すかさず干物を棚に戻し、二尾、トングで掴みビニール袋に入れ口を縛る。

大丈夫だよね。使い切れるよね。持て余さないよね。

ドキドキしつつ、買い物を続ける。

さっき今晩のつもりで豚ひき肉ともやしの甘辛ハンバーグと、明日のつもりで玉ねぎと豚肉の生姜焼き、それに野菜いっぱいの味噌汁を作ってきたのに。

相変わらず、いつ「今日は何にもしたくない」となってもいいように温めればいいだけの状態にして何品か用意したがる。体調に自信がないのでこうなっていると安心するのだ。

生姜焼きやら肉じゃがやら、完成品が既に冷蔵庫におさまっているというのに今これ買って、大丈夫だろうか。

あら、お安いわね。とカゴに入れる主婦に憧れる。

お得だわと買って帰り、ささっと作り置きや献立に活用する。

かっこいいじゃないか。

コロナのおかげで、家族がいつも家にいるので、3食用意するようになった。手際の悪い私もそれなりにササっとあり物で作ることが増えた。

どんな調味料を組み合わせると、どんな味になるのか、家族がどの味付けだと食いつくのかもなんとなく、なんとなぁく、わかってきた。

我が家は醤油甘辛、鶏ガラと卵、コンソメ、ごま油、甘めの南蛮漬けがウケる。

とりあえずこの味付けにしておけば大きく外れることはない。

肉と魚と野菜を組み合わせて、これらの調味でそれっぽいものを作ればいい。挽肉だろうが、魚だろうが恐れず炒めたり煮込んだり揚げたりすればなんとかなる。

以前は安売りを見つけても、いやいやいや、考えた献立が崩れると手を伸ばさず、メモした通りのもののみ買い、余計なものはカゴに入れなかった。が、ここ最近、なんかやれそうな気がすると、妙な自信をつけ、つい、つい、ベテランぶりたがる。

しかし、やっぱり一年そこそこのコロナ訓練で、そうそう実力がついているはずもなく、やれる気がするとカゴに入れたものの、うまく使いまわせるかと動揺しているのだ。

どうしようどうしよう。

鯵は南蛮漬けにしてもいいと自分にカッコつけていたが、よく考えるとなんだかめんどくさい。ええい、今日使ってしまおう。

予定変更、塩焼きにしちゃえ。

するとあのハンバーグは明日?生姜焼きは?三日くらいは大丈夫だよねぇ。

この挽肉は・・キャベツが丸一個手付かずだから、それと。。。

ああ、そうだお豆腐が賞味期限近いんだった。厚揚げ!あれもそろそろ。

肉団子にしてスープにする?

生姜焼きは?スープってカレーも残ってるし。ああ卵も。

もう頭が混乱している。

肉団子だけを作って冷凍を、などと冷静に考えればそんなに慌てることはないはずなのに、冷蔵庫事情と考えてた献立と、そして今買ってしまったお得な食材とを、どう、うまいこと使おうか、どう気の利いた賢い主婦っぽく料理しようかと考えるものだから慌てるのだ。

その日は結局、鯵の塩焼きに厚揚げのチーズ焼き、味噌汁、それだけだと息子は物足りないので冷凍してあったささみのフライ二切れと、ちっともセンスのかけらも、できる主婦っぽさもない食卓になった。

そして今日の午前、気になっているものはさっさと片付けたいと、キャベツと挽肉を炒め、味噌、味醂、醤油、酒、砂糖を1、1、1、1、1で混ぜ合わせたタレで味付けして大きなタッパーにどっさり入れた。

私は何をやっているんだろう。

食材を買ってきては、大急ぎで何かに変える。

冷蔵庫の中には献立にはチグハグなヘンテコ料理が詰まっている。

なんかエネルギーの使い方、まちがっている気がする。

一番かっこいいのは、ササっと作って、フライパンから、出来立てホヤホヤのものを皿に入れ

「さあ食べて」

とやっちゃう人なんだけどなあ。