52歳

昨日が誕生日だった。

息子がハリオのガラスのお急須を買ってくれた。

スーパーの2階で買った、箱剥き出しのまま

「お茶、よく飲んでるから」

と差し出してくれたのは、前日だった。

「明日が本当だけど、部屋に置いているうちに割るといやなんで」

浮腫が出てから、お通じのよくなるお茶を毎日煎じて飲んでいる。

それを見ていたからだと言った。

剥き出しだろうがスーパーだろうが、息子が自分の意思でそこに行き、レジに並んでくれたことが嬉しい。

小学生、中学まではカードを作ってくれたり、花屋で私が好きだと言ったからとガーベラを一輪買ってきてくれたり、プレゼントを用意してくれたが、高校反抗期あたりからそれも無くなった。

ただ一度、高校の時にくれたことがあった。

私の母が息子を呼び出し、外にでた。ジャケットを買ってやる約束をしていたのだ。

その翌日が私の誕生日だったのだが、綺麗なデパートの包みを持って来た。中を開けると可愛らしい小鳥の絵の書いてある便箋だった。

思いがけないことに私は大喜びをしたが、息子はなんとも微妙な顔でそそくさといなくなった。照れているのだと、その時は別段に気にもせず、手放しで喜んだ。

翌日、トントンと実家との間にある扉が鳴った。母だった。

「昨日、息子ちゃん、プレゼントくれた?」

「うん、かわいい便箋。すんごい可愛いの選んでくれたんだよ」

持ってきて見せようとすると「いいわよ。それ、知ってるもん」と背後から聞こえる。

へ?

「それ、昨日私が、『お母さんにプレゼントしてあげなさい』って買わせたの。お小遣いがそんなに無いって言うから、お金、少し出してあげたのよ、そう、よしよし、ちゃんと持って行ったのね。あのこ、一人っ子だから、みんなから何かしてもらうばっかりで、誰かに自分からプレゼントするってこと、ちゃんと教えた方がいいのよ」

この時の私の落胆を想像していただきたい。

知りたくなかった・・・。

すっかり息子からと信じて浮かれていたのが、母の差金としり、しゅるるるるると気持ちが萎む。

自分の手柄だと得意になっている母に弱々しく「そう言うことは知りたくなかった」と言うとムッとした。

「あらなんで?いいじゃないの、それくらい。あなたそう言うとこダメなのよ、神経質で」

えーん、夢見たままでいたかったんだよぅ。

 

今年、彼がホイよと手渡してくれたのは、紛れもなく息子チョイス、息子自発の急須。

段ボールの箱、剥き出しで、リボンも包装紙もないものだけれど嬉しい。

「ありがとよお、嬉しいよぉ」

5年前、余計なことしてと密かに恨んだが、案外あのときの「ばあちゃんの教育」が今頃になってじわじわと芽を出しているのかもしれない。

 

昨日の夜、母のところに顔を出した。

「何よ、こんな時間」

大河ドラマを見ている最中だったので迷惑そうに振り返る。

「いや、誕生日だったんで。この世に産んでくれて、育ててくれてありがとうございますと。息子にプレゼントもらって旦那さんにもお祝いしてもらって、こういう幸せも産んでもらってこそだと思ってさ。」

すると、くるりとこちらを向き直し「まあまあご丁寧に。お仏壇にも手を合わせていきなさい」とにっこり笑った。

仏間にいき、今度は父と祖母に礼を言う。

 

いつも見守ってくださってありがとうございます。

やっとここまでこられました。

これからもどうか、よろしくお守りください。