昨日が誕生日だった。
息子がハリオのガラスのお急須を買ってくれた。
スーパーの2階で買った、箱剥き出しのまま
「お茶、よく飲んでるから」
と差し出してくれたのは、前日だった。
「明日が本当だけど、部屋に置いているうちに割るといやなんで」
浮腫が出てから、お通じのよくなるお茶を毎日煎じて飲んでいる。
それを見ていたからだと言った。
剥き出しだろうがスーパーだろうが、息子が自分の意思でそこに行き、レジに並んでくれたことが嬉しい。
小学生、中学まではカードを作ってくれたり、花屋で私が好きだと言ったからとガーベラを一輪買ってきてくれたり、プレゼントを用意してくれたが、高校反抗期あたりからそれも無くなった。
ただ一度、高校の時にくれたことがあった。
私の母が息子を呼び出し、外にでた。ジャケットを買ってやる約束をしていたのだ。
その翌日が私の誕生日だったのだが、綺麗なデパートの包みを持って来た。中を開けると可愛らしい小鳥の絵の書いてある便箋だった。
思いがけないことに私は大喜びをしたが、息子はなんとも微妙な顔でそそくさといなくなった。照れているのだと、その時は別段に気にもせず、手放しで喜んだ。
翌日、トントンと実家との間にある扉が鳴った。母だった。
「昨日、息子ちゃん、プレゼントくれた?」
「うん、かわいい便箋。すんごい可愛いの選んでくれたんだよ」
持ってきて見せようとすると「いいわよ。それ、知ってるもん」と背後から聞こえる。
へ?
「それ、昨日私が、『お母さんにプレゼントしてあげなさい』って買わせたの。お小遣いがそんなに無いって言うから、お金、少し出してあげたのよ、そう、よしよし、ちゃんと持って行ったのね。あのこ、一人っ子だから、みんなから何かしてもらうばっかりで、誰かに自分からプレゼントするってこと、ちゃんと教えた方がいいのよ」
この時の私の落胆を想像していただきたい。
知りたくなかった・・・。
すっかり息子からと信じて浮かれていたのが、母の差金としり、しゅるるるるると気持ちが萎む。
自分の手柄だと得意になっている母に弱々しく「そう言うことは知りたくなかった」と言うとムッとした。
「あらなんで?いいじゃないの、それくらい。あなたそう言うとこダメなのよ、神経質で」
えーん、夢見たままでいたかったんだよぅ。
今年、彼がホイよと手渡してくれたのは、紛れもなく息子チョイス、息子自発の急須。
段ボールの箱、剥き出しで、リボンも包装紙もないものだけれど嬉しい。
「ありがとよお、嬉しいよぉ」
5年前、余計なことしてと密かに恨んだが、案外あのときの「ばあちゃんの教育」が今頃になってじわじわと芽を出しているのかもしれない。
昨日の夜、母のところに顔を出した。
「何よ、こんな時間」
大河ドラマを見ている最中だったので迷惑そうに振り返る。
「いや、誕生日だったんで。この世に産んでくれて、育ててくれてありがとうございますと。息子にプレゼントもらって旦那さんにもお祝いしてもらって、こういう幸せも産んでもらってこそだと思ってさ。」
すると、くるりとこちらを向き直し「まあまあご丁寧に。お仏壇にも手を合わせていきなさい」とにっこり笑った。
仏間にいき、今度は父と祖母に礼を言う。
いつも見守ってくださってありがとうございます。
やっとここまでこられました。
これからもどうか、よろしくお守りください。