「トイレ入ってる?」
私はリビング。やだな。あれほどトイレに入っている時に声かけないでって頼んだのにまたやってる。
夫は私がトイレにいると必ず声をかける。
「トイレ、入ってる?」
「あのさ、父さんから電話があってさ」
「ねえ、トンさんからもらった僕の使ってるiPad、Windowsいくつ?8?7?古いよねえ」
・・・。
用事がなくても、とりあえず挨拶がわりになんか言うんだ。
iPadはWindowsじゃないよと言いたい。ついでに設定のところから今使っている機種がなんというOSでバージョンがいくつか確認できるよと教えたい。
パソコン音痴の夫がすんなり「あ、そう」と納得してくれるとは思えないしなぁ、私も手身近に説明できそうにもないし。
でもでも、とにかく今はそこから立ち去っていただきたい。
一刻も早く、今、すぐ。どっか行ってくれ。
別に乙女ぶるわけじゃないけれども、お手洗いに腰掛けている真っ最中、おしゃべりなんかきまり悪い。
今、すぐに応答しなければ家が燃えたり、誰かが倒れたりするんでなけば、ドア越しに話しかけてそこに留まり返事を待つのはやめてほしい。
だいたい、トイレ入ってる?ってなぜ聞くのだ。
電気がついてれば「あ、誰が入っているな」ということだ。そしてリビング覗いて妻がそこにいなければ、その明かりの主はそいつだと、どうして察してくれないんだ。
いくら長年一緒にいる夫婦でも、取り込み中に「なあに?あ、それはね・・」なんて嫌だ。
「入ってる?」
声はまだ続く。デリカシーがない夫に反抗したくて黙って様子を伺っていた。
するとドアが開いた。「もう・・」と再度言ってやろうと構えていると、入ってきたのは息子だった。
今は彼のだったか。
珍しい、トイレに声かけなんてしたことないのに。
「母さん?あ、こっちか。トイレじゃなかったの?」
いっけない、電気消し忘れてたのだろうか。
「ごめん、電気つけっぱなしだった?消しといて」
「いや、電気は消えてたけど、なんか人の声が・・」
人の声?人の、声?・・・!
あぁっ!
「ごめん、ラジオだ、消すの忘れた!ごめん!」
在室中、ラジオをつけることがある。
自分の音を聞かれるのを避けるため、つけるのだ。
それをつけっぱなしで出てきてしまった。
そんな意図を知られたようで恥ずかしい。
お尻丸出しで会話するのと同じくらい恥ずかしい。
ごめんごめんと慌てて消しに行った。
息子は、トイレから何やら会話が聞こえてくるから一人で何喋っているんだとビビった、とニヤニヤ。
「ついに心臓だけじゃなく、ストレスもそこまできたかと」
乙女なんですっ、これでもまだ。