土曜だと言うのに、朝6時半からシャッターをあけ、洗濯機を回していた。
8時近くになって夫が降りてきた。
「もう起きてたの」
薬のせいで眠りが浅いんだというと、気の毒にと思うのか、あ、そっかと思うだけなのか、「あぁ。。」と曖昧な相槌を打ち、歯ブラシを手に取った。
「あのさ。まあ今、言っても仕方ないんだけどさ」
ちょっと遠慮がちに鏡越しに言う。なんだろう。何か会社で重大なことが起きているのだろうか。
「昨日さ」
昨日、何があったと言うのだ、会社で。
「トンさんが寝に2階に上がって行った後、息子が気がついた。お茶みたいの、あれ、火が小さくついたままだったよ。すぐ消したから大丈夫だったけど、気をつけてね」
えぇっ。
浮腫がひどくなってから、お通じをよくするお茶を煎じて飲んでいる。1日2つのティーバックが目安でお湯に浸すだけと箱に書いてあったが、そんなんじゃなんの反応もない。そこで目安量を超えずできるだけ濃く、回数多く飲もうと何度も煮出しては飲んでいる。
昨晩も朝起きてすぐに飲めるように、鍋に茶葉を放り混んで火にかけた。
グツグツしてきたら火を弱め・・・。
そうだ、そのまま歯を磨き、すっかり忘れて「じゃあお先に」と2階に上がっていったのだ。
ああ、やってしまった。どうして私はこうなんだ。
「ごめんなさい」
「あ、どこか燃えたわけじゃないから、大丈夫だから、次から、ね、気をつければ、ね」
そう慰められても、自己嫌悪で沈む。
息子も起きてきた。
「おはよ。ごめん、昨日、やらかしたそうで」
何が?と言いかけ「あ、あれね」とニヤリとした。
「大丈夫、すぐ消したから。なんだよ、父さん、母さんに言うと元気なくすから内緒にしておこうって言ってたのに自分で言ってんのかよ」
本当に申し訳ないともう一度言う。
「なんだよ、落ち込んでのかよ」
「落ち込むさ。どうして私はこうなんだって、嫌になるよ。・・・早く認知症になるんじゃないかと思う・・・」
実を言うとこれは本音で、こんなうっかりをするのは脳が萎縮し始めているんじゃないかと怯えているのだ。
「母さんの場合はそんなの昔っからじゃん、今に始まったことじゃないでしょ」
何言ってんのと言わんばかりに息子に笑われた。
「でも、これは一番やっちゃいけないことじゃん、いくらなんでも・・」
「前から味噌汁の火をつけたまご飯食べ始めたり、よくやってたよ、俺が見つけて注意したら
あ、ごめん、消しといて〜とか言ってさ」
それでも寝てしまうのは、さすがにひどいと項垂れる私に続ける。
「落ち込むなって。落ち込むならもっと早くから落ち込め。何を今更」
そこに夫が洗面所から出てきて加わった。
「大丈夫だよ、トンさんのはボケたんじゃない、天然です。」
そうそう。頷きながら息子がガス台の前にやってきた。
「これからは夜寝る前に指差し確認しなさい、火、消した、よしってやんなさい」
すみません。はい。そうするよ。
二人は怒らなかったけど、これは応えた。今晩から指差し確認、ちゃんとする。