離乳食

息子が親知らずを抜いて今日で八日目になる。

この一週間、硬いものは食べられない、口は開かない、刺激物は禁止、しかし、腹は減る、という状態の彼の食事は手探りだった。

抜いてきた初日はさすがに食べないのかと思いきや、「いや、いる」。

しかし、噛めない。

じゃあ、とりあえずこれでどうだと、白菜とキャベツと鶏ひき肉のクリーム煮を作り、そこにガーッとブレンダーをかけてドロドロにした。

パンも無理だというのでジャガイモをチンして、牛乳とバターでやわやわのマッシュポテトにして添える。

ほぼ固形物はダメとみた。

本人、肉っぽいものを欲する。青年の体は口の中で起きている傷害など、お構いなしなのか。

翌日、豆腐と鶏ひき肉とで崩れる寸前のハンバーグらしきものを大量に作った。小さな小判型になるよう、手では成形できない柔らかさのタネをティースプーンでぽとんぽとん、フライパンに落としながら、ふと思った。

これ・・いつか前にもやったような・・。

離乳食だ。

そうだ。ブレンダーでガーッとやるのも、やわやわのマッシュポテトやカボチャの甘いのも、息子の歯が生えそろっていない頃よくやった。おやつに玄米フレークをお湯でふやかしたのに、きな粉を混ぜて出したり、やったやった。

たくさんできた離乳食もどきの豆腐団子を冷蔵庫に保管する。

あの頃と違って調味料への制約がほとんどない。これは楽なことだ。

今日はケチャップ、明日は醤油と味醂と酒で甘辛にと味付けし、小判型をさらに包丁で1センチ角に切る。このサイズ・・・懐かしい。

そうと思い至ると、クックパッドで離乳食を検索する。あの食べ具合から見ると中期かなと見てみると、ずらっとやわやわメニューが出てきた。

最近のママはみんな偉いなあ。

にんじんをすりおろしたジャムだったり、蒸しパンだったり、豆腐と卵の蒸し物だったり。

もやしも小さく切れば食べたというのをみて、ホントかなと試しにやってみる。

食べた!

もはや乳幼児の母の気分でこれはどうだ、これならいけるかと実験のようにあれこれ探る。

大人の普通食を上手に工夫してやればいいというのが、不器用な私にはかえって難しかったのも相変わらずなら、夫にやわやわメニューでないものをと考えたものの、カレーやらポトフやら鍋やらと、明らかに手間のかからないものになっていくのも昔と重なる。

あの頃と違うのは、目の前で「やわやわ」を食べているのがぷっくりかわいいほっぺの赤ちゃんではなく、無精髭を生やし、片頬の腫れ上がった男であるということである。

「どう?」

「ん、いける」

青年の成長は早く、三日後には中期から後期へと変化した。

使える食材の幅が広がり、ああ、そうだったそうだったとまた思い出す。

マドレーヌを焼き、小さく切る。鶏肉を焼いて小さく切る。だんだん食事らしきものになってきた。

不思議なことに豆腐が食べづらいという。口の中であちこちに広がり傷に当たるらしい。

そして、今朝、八日目。

起きてきた顔を見ると昨日まで膨れていた頬がシュッとしている。

「そろそろおかゆ、食べてみる?」

「うーん、まだいい」

おかゆも豆腐と同じで難しいのだろうか。

「パスタはまだ早いよねぇ・・・どうしよっか、主食。そろそろマドレーヌやパンも飽きたでしょ」

すると明らかに目がキラッと意欲を見せた。

「パスタ、いってみようかな」

スパゲティが大好物なのだ。

「パスタ、食べてみる」

毎日ちまちま特別料理を拵えていたのから解放されるのはありがたいが、本当に咀嚼できるのか怪しいが、マカロニでは嫌だと言うので、挑戦することになった。

今夜はミートソース。みんな一緒でミートソース。