口をきかない真っ最中

息子と昨日から口をきいていない。

この揉め方は久しぶりだ。お互い自分が悪くないと思っているから折れないので、これはちょっと長引くかもしれない。

原因はつまらないことである。ん?つまらないかな。どちらにとっても譲れないのだからそうでもないのかもしれない。

昨日の午前中、私が母のところに顔を出したことを息子が激しく咎めた。

「なんで行ったんだよ、二週間は近寄らないって言ってただろ」

確かに言った。母にも用心のため、二週間はこっちにこないでと言った。正確には「息子が過敏に反応するから二週間は我慢して」と頼んだ。

陰性といえど、後から陽性になることもあるという。

息子はそれを恐れているのだ。そして私もそれに同意した。

しかし、実際陰性とわかると、母の高熱が気になる。

一昨日、庭から窓越しに買い物してくるものは何かないかと様子を伺ったとき、カーテンを開けて顔を出した母が、げっそり痩せていたのを見て急に心配になった。

そうだよな。コロナじゃなかったとしても体調を崩しているには違いない。

聞けば胃が痛くて食事が進まないのだと言うではないか。

それが気になって、つい様子を見に中扉から母の方の家に入ったのだ。

用心はしていた。2メートル距離をとり、ドアを開けたが部屋には入らず廊下から声をかけて見舞った。

ずいぶん回復し真っ白だった顔にも血色が戻っているようだったので早々に引き上げた。

自分の家側のドアを開けると、そこに立っていたのはこんな日に限っていつもより早く起きたばかりの息子だった。

で、上のセリフに戻るわけだ。

「なんで行ったんだよッ。」

おばあちゃんの様子を見に行ってただけだよ。上がり込んでお茶のんだりしてたわけじゃないよ。距離もあけて廊下から大丈夫って聞いてすぐ戻ってきたんだよと説明しても勢いはおさまらない。

「それだけならなんで10分以上もいるんだよっ、そんなのメールか電話でいいだろっ」

母に私自身の体調を聞かれたので、安心させようと細かく説明して安定しているから大丈夫だと言い、そこから少し自分の近況報告をしているうちに10分以上かかっていたようだ。

「そんなに密に話してないから大丈夫だよ」

そう言いながら手洗いうがいをして見せても、まだ、だめ。

だんだん腹が立ってきた。

「一応陰性と出たんだし、距離も十分にとって話していたんだ。メールや電話より顔を見ないと様子がわからないんだよっ。」

「なんだよっそれっ。逆ギレかよっ」

「そんなに心配なら私から離れればいいじゃんっ」

・・・・。

やっぱり私が悪いのかなあ・・。

 

昨夜の夕食時、二人とも会話もせず、目も合わせず。普段、結託して夫の食事中のオナラなどを突っ込む二人がどうも不穏な空気を醸し出していると察知した夫は、嬉しそうに

「何、喧嘩?喧嘩してんの?」

とはしゃぐ。

それをまた二人はブスッと無視しながら食べる。

「ん?何?何々?揉めてんの?」

 

それが二日目の今も続いている。

まだ謝る気になれない。あんなふうに怒鳴られるほどのことしてないもんっ。

それと同時にうっすら悲しい。そんなに潔癖に対応する息子の心が寂しい。

偽陰性ってことがあるだろっ」

確かにそうだが。

 

これまでこういう時はなし崩し的にどちらともなくボソボソと会話が始まり、ギクシャクしながらやがて元通りになってきた。

今回はそうはいかなそうだ。

上等じゃねえか。行くとこまで行ってやるっ。

・・・と多分両者が今、思っている真っ最中なのです。