携帯が鳴った。
出ようしたら切れた。姉からの不在着信がずらっと画面にある。
なんだなんだ何事だ、すぐ掛け直すと姉はすぐ出た。
「あ、つながったつながった。さっきから何回も電話してたんだよ」
ごめんごめんと言う私の声にかぶさって喋り始めた。
「アータに、背中を押して欲しくて電話した」
「なによ」
「今、目の前に新製品のBluetoothのイヤフォンがあるんだが。二万二千円するのよねぇ。。今使ってる二千円のが壊れたんだけど、ちょっとお高いかしらねえと思って」
世話の焼ける。
がま口は空いて中のお金も掴んでいる。しかし2千円でも買えるイヤフォンに二万つぎ込む勇気と言い訳がない、誰かに「いいじゃないの」と行って欲しいのだ。そして姉は私がそう言うことを知っている。
「買いなさい」
任務を遂行すべくそう言う。
「ボーナス出たんだけどねえ」
めんどくさいなあ。
「いいじゃないの、買いなさい。また働くんでしょう、楽しめ。ホクホクしなはれ」
「でもねえ」
ああもう焦ったい。これでどうだ。
「いいから買いなさい。私みたいに精神科に通って保険の効かない診察料にお金払うよりずっと健全な使い方です、だから買いなさい」
するとケロッと吹っ切れた声で
「それもそうだわ、じゃ買うか」
と電話が切れた。
私の諸々の日々も、何かのお役に立つものである。
あの暗闇の中いる私に教えてやりたい。
その苦しみはいつか思いがけないところで力を発揮するぞ。