新しくでた薬は元気になるはずなのに、今一つピンとこない。
それでも、そういや、あのどうしようもない倦怠感はないな、最近・・・と、改めて意識を向けてみれば変化はしているようなのだから、作用はちゃんとしているはずだ。
効いた!と実感のあるようなものは負担も大きいはずだから、ある意味危険なのかもしれないが、どうしてもこう、手応えというものを求めてしまう。
漢方でもそうだけが、効いているんだかいないんだかくらいの、ゆっくり効果を表すものの方が身体にはいいのだろう。
「トンさん、どうしたの、具合悪いの」
朝食後、夫が二階に上がってからつい、机に突っ伏していたら、コーヒーを入れに降りてきた彼がそれを見つけて言った。
「いや、大丈夫」
大丈夫と問われてダメとはなかなか言えない。第一、そんなにどうしてもダメなわけでもなく、やる気が湧かない、しんどい、だるい程度のものなので、騒ぎ立てるほどのことでもないのだ。
いっそのこと熱でも出たら具合悪い宣言もしやすいのにとチラリと思う。しかしやはりそれは不謹慎なことで、特に今の様に本当に倒れたくも闘っている人、闘わざる得ない人のことを思い出すと「甘ったれんじゃない」と、慌てて少し前に浮かんだ考えを掻き消し恥じる。
ガバッと顔をあげ、返事をすると
「あ、そう。無理しないで休みなさいよ」
と言い、ドアを閉めてまた二階に上がって行った。
無理はしてないんだけさ。消えた夫に向かい心で訴える。
みんな食べる時間がバラバラだから自分軸で動けないんだよ。毎日その日によって変わるから。
夫は昼、1時になる日もあれば2時の日もあるし、抜いて夕方いきなり「なんか軽く食べるものあるかね」とくることもある。
息子は息子で昼過ぎに起きてくる時もあれば9時半に起きて学校に行く日もある。
毎日みなさままちまちで、そこにオプションで母の用事や留守番が入るのでなんとなく、無意識にそれらに合わせて家事や買い物をするのだが、段取り手際が悪くおまけに要領も悪いのでうまくまとまった自分の時間が作れない。
とは言うものの、誰も悪くないのだ。
無理しないで休みなさいよと言う夫のそれは本心だが、だからと言って「じゃあしばらくご飯は自分で作るよ、風呂掃除も洗濯もまかせろ。トンさんにもおかゆと白身の魚で何か作ってあげよう」と展開があるわけではない。
そんなことは彼にいきなり求めてもできるわけがない。
第一、そんな男は彼じゃない。
全てわかっている。
夫もすぐ効く特効薬ではないのだ。
劇薬のように効き目はないが、作用は一定を保つ。
そしてけっこう、それくらいの方が身体にも心にも優しいのだろう。
温度の低い温泉に長く浸かっているかのように。