お小言

本当はいろいろと描きたいなあと思っていたことが溜まっているのだけれど。

そんなこともぶっ飛び、今、かなり深く気分が落ちている。

昨日から30分おきくらいに電話がかかってくる。警察署から、詐欺が多いので基本、電話には直接出ずに、常に留守番電話にしておくようにとのお達しで、いつもは鳴っても出ない。

しかし、こう頻繁だと、ふと「もしや、誰が緊急の用事かしら。携帯の電話番号を知らない誰かとか。銀行さんかな。あ、義父の身に何かあったとか」と不意に思い、つい、受話器を持ち上げた。

「あ、こんにちわ〜」

今にして思えば、第一声が胡散臭かった。

若い男の声で、中古の皿を探していて、どんなのでもいいから買い取るのでないですかねということだった。景品でもなんでもいい、数が足りなくて今集めているんですよ。

「ないです。お譲りしたいものはないので、ごめんなさい」

「一枚からでもいいです。ブランドとかでなくても。景品のものでも」

景品でもいいとな?ナチュラルローソンの景品のリラックマのプリントされたのが、ある。

・・・・と思ってしまったのだ。

そしてつい、「一枚でもいいんですか」と呟いてしまったのだ。

脳裏に夫が家にいるからという、安心感と油断があったのだ。

そこからトントントントントンっと彼は話だし、ちょうど近くにいるからこれから来るという。電話帳に乗っている住所であっているかと聞かれた瞬間、なんかヤダなと思ったが、勢いに飲まれてしまった。

息子が小さい時に、もし迷子になった時にと載せていたが、今はそんな必要もない。この家の電話の番号は必要な人にはもう知らせてあるのだと、今頃気がついた。

それでも約束していたお皿と、その他に使っていないものも三枚追加して玄関に置いて待つ。

夫は会議中だろうか。立ち会って欲しいなと思っているところにタイミングよくコーヒーのお替りを入れに降りてきた。

更にタイミングよくチャイムが鳴った。

「よかった、ちょっと出て」

「なに?誰?」

「いいから、ちょっと立ち会って、買取の業者さんなんだけど、初めてだから」

状況を把握した夫は、番犬のように敵意剥き出しで扉をあけた。

「あ、どうも〜」

若者は番犬に怯むでもなく、笑顔で夫に名刺を渡す。

それを嫌味ったらしく隅々まで裏返しながら穴を開ける勢いで眺め、目を離さない夫が立ちはだかる前で、パシャパシャと携帯で写真をとり、その画像を本部だというところに送り査定を待つ彼はちっとも悪びれず、むしろ爽やかだ。

書類を出し入れするカバンも中は綺麗にファイリングされ、身嗜みもよい。

やっぱりいい人なんだ・・・。

結局値段自体がつかず、格好悪いことに、これはいらないと、逆に断られ、手ぶらで帰って行った。

「じゃ、どうも、またご縁があったら、お願いしますっ」

爽やかさだけを残し、去った。

扉が締まりきると、夫がくるりとこちらをむいてすぐに言った。

「だからこういうの、呼んじゃだめでしょう」

声は尖っていないが、怒られた。

「でも無理にあれだせこれだせとか粘らなかったじゃない」

「なんでもダメ。とにかく外の人を簡単にうちに入れちゃダメ」

「だって、タッさんが家にいるから大丈夫だと思ったんだもん」

「そういう時はすぐに僕を呼びなさい」

「・・・はい」

明らかに私がいけなかった。

怒られたなあと、軽く落ち込んでいると、息子がのっそり朝寝坊で降りてきた。

「誰かきてたの?」

「ん?いや、別に」

「なんか業者の人、きてなかった?」

いやらしい、聞いててわかってるんじゃん。

「うん、でもなにも売らないで終わったよ」

「父さん、なんか言ってなかった?」

「別に」

「なんか、帰って行った後、すぐ、母さんに言ってなかった?これは何とかかんとかだって」

「聞こえてたんじゃない。こういうのは呼んじゃダメって怒られた」

そこから。

そこからが長かった。

息子が名刺からTwitterで検索し「ほら、それ悪評高いぞ、悪徳だぞ」と私を責める。

幸い被害は報告されていなかったが、しつこく電話をかけてくる商法がクレームに何件も登っていた。

「ほら、これも。・・・ここにも。・・・ほら」

ねっちねっちうるせえなっ!とこみ上げてくるが、そんな立場でない。

これはひたすら、黙ってお小言を聞くしかない。

うちは、小言を言い出すと、男どもの方が長いのだ。

ああ、耐えねば。

しばらく威張れない。やってしまった。

外はカラッと晴れて、私の心はドヨーンと暗い。