先日、「私はもう何年も二人でどこかに出かけたことがなくて、幾分不満が溜まっているよ」と言ったら、それが響いていたのか、今頃になって
「さあ、今日はどこか行こう。どこがいい?」
と連休二日目の朝、夫が言い出した。
結婚前、二人でよく海を眺めに行った幕張の浜に行こうか。
そんなに遠くなくていいから。少し手前の葛西臨海公園は?
いいよ。じゃ、そうしよう。このご時世、どっかお店に入るのはできないから、コンビニで何か買って車の中で食べよっか。
うん。
あ、その前にごめん、ちょっと電話する用があるから、一個済ませていい?
いいよ。どうせ洗濯物が上がって干すのがあるから。
朝食の食器を洗い、洗濯物を干す。まだ用件が終わらなそうなのでお風呂も洗う。
服を着替え、カバンも用意した。
・・・。夫は降りてこない。
時計は11じ50分。もう、今日はこの時間からは葛西は無理だな。
ごめんごめんごめん。長引いちゃって。
寝巻きの格好のままの夫が降りてきたのは12時半を過ぎていた。
もう今日は無理だから、お昼食べてからにしたら?
結局残りのカレーを温め、お腹に入れてから家を出た。
「どこ行きたい?トンさんの好きなとこ、どこでもいいいよ」
好きなとこって。本当に行きたいなあと思っているのは昭和記念公園の銀杏並木。箱根のススキ。房総のお花畑。今から日帰りでは行けないもんな。
「私、神保町に行きたいな」
いいですよ。
私が中学から結婚するまで過ごした街。
通った中学も高校も大学も、ギュッと詰まった青春の街。
寄り道もした、恋もした、父と二人で散歩もした。
全てが詰まっている。
神保町にはすぐついた。
子供の頃から変わらず営む店もあれば、様変わりしている一角もある。
少しお洒落に疎い、緩い気の良さげな人々が立ち読みしている。
ああ、この感じ。
夫が駐車する場所を決めかねてグルグル周り、なかなか停車しないが、その間、私は窓から懐かしい裏道に「ああ、ここっ」と興奮する。
駐車スペースを見つけたのは三省堂から少し離れたところだった。
いつもは後ろからついていくのに、ここは私に任せてとズンズン先を歩く。
「行先、ここにしてよかった、何にも買わなくても、もう満足」
三省堂に足を踏み入れると、それがまた懐かしさで私をホッとさせる。20分後にと別れ、それぞれお好みのフロアを流す。何にも買わなくても満足だったはずなのに、やっぱり本を二冊、買った。
帰ろっか。
今日、幕張じゃなくてよかった。
車の中でアイスコーヒーを飲み終わったら夫が自分のホットコーヒーを分けてくれた。
こんなのも久しぶり。