たこ焼き器

 

姉が出かける前に庭から顔を出しこう言っていった。

「今、近づくな。母が台所大掃除始めたぞ」

疲れると怒りっぽくなる習性があるため、警戒警報が発令された。

 

午後にでも甘い物持って行ってそろそろやめたらと言おう。

ぼんやり考えていたら、母の方からやってきた。

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・・・。

「いらない」

見るなり即答。

「あらっ一度も使ってないのよ。お姉さんがなんかの景品でもらってきたんだけど、一度も使ってないのよ新品よ」

一度も使わなかったということは、必要性がなかったということ。ということはウチでも同じであろう。

「何度か使ったら捨てていいから」

グイッと押し出し、受け取らせ、消えた。

彼女が衣替えをすると、服を、大掃除を始めると不用品を、捨てるには後ろめたい、もしくは惜しいものがこちらに回ってくる。

拒否することは基本、許されない。

なんだかんだ言いながら置いてゆくのだ。

 

もう、いらないよ、こんなの。と思いつつも、手にしたおもちゃへの好奇心が止まらない。

ま、どうせ捨てるんなら、お遊びしよう。

ちょうどホットケーキミックスが残っていたので、これで焼いてみることにした。

 

 

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蜂蜜、みりん、牛乳、卵を入れ混ぜ生地を作り、新品のたこ焼き機に熱を入れる。

チャチな作りのくせに、いや、それだからか、3分もしないで天板は熱くなった。

へこんだ穴にスプーンで落としていく。

お祭りのベビーカステラのような甘い香りがしはじめた。

ホットケーキに比べるとあっという間に表面にフツフツと気泡が出てきた。熱の通りが早くて慌てる。

つい、穴いっぱいに入れてしまったため、溢れ出し、うまくひっくり返せない。

爪楊枝を使って無理やり丸め、転がした。

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何をやっても不器用だと自分でおかしくなった。

出来上がったのは焦げた甘ボール。香りは間違いなくベビーカステラ

熱伝導がいいということは、すぐこげるということ。

ほぼ、おもちゃなので、スイッチのオンオフ以外に温度調節機能はない。

二度目は少なめに生地を入れ、もたもた突っつきながら、スイッチを切ったりつけたりしながら焼きづつけた。

 

たくさんできたので母のところに持っていく。

「さっそく作ったわよ」

扉を開けると、台所で髪振り乱し、まだとっ散らかっている真っ最中だった。

差し出しされた甘ボールをヒョイっと口に放り込み

「美味しいじゃない。」

いかにも、いいものをあげたと言わんばかりにふんぞりかえる。

「ま、でもしばらく使ったら捨てなさいよ」

まったく。

ふとみるとテーブルの上にこんもり鍋やらヤカンやら紙の箱やらが積もられている。

「何、これ」

「あ、これ。まだまだいっぱいあるのよ、いらないものが。整理してるの」

そうなんだぁ・・・と呟き、足早に引き返す。

また何か持ってこられないよう、警戒警報、再度発令。

とは言うものの、手に入れたおもちゃは思いのほか面白かったのでまだ捨てない。

これで焼きおにぎりとシウマイを作ってみたいのだ。