息子が起きてこない。
時刻は既に午後2時。いったいどういう体の構造になっているんだ。
小中高と一度も、いい加減起きなさいとしないでも、勝手に降りてきた。
今日は遅いなと思ってもたいてい一声かければ「ヤバ」と布団から抜け出す。
大学に入ってからは、いよいよ本人任せだったが、登校に間に合うよう自分でアラームをかけ朝食を食べ、出ていた。
が。
コロナの影響で自宅からのリモート授業に切り替わったことに加わり、四年生で授業がぐっと減ったため、早起きはほとんど必要なくなり、彼が午前中から活動しているのをトンと見かけない。
さすがに本人もバツが悪いのか、一応は
「やってしもうた」
と、さも、うっかり寝過ごしたかのような第一声で現れるが、それも空々しい。
「おはようと言いたいところだが、既に昼だな」
朝の残りを取り分けてお盆に乗せてあったのを温める。卵を焼いて置いてあるだけで
「ぐうたら寝て起きてきたらこの朝食。俺は恵まれてるぜ。母さん神やな」
言われる前に自らツッコミを入れることも毎朝の日課となっている。
起きてこない。
2時過ぎは新記録だ。そういえば新婚当時、毎週末、こうだった。
毎週末、夫は3時を過ぎても起きてこないのだった。
会社で疲れてるんだろうなあ。結婚する準備でも忙しかったしな。身体が必要としているんだと、当時24歳の私は暇を持て余し一人でよく散歩に出掛けた。
しかし一考に夫の体が睡眠を欲することが落ち着く気配はない。11月に式を挙げた私たちだが、暮れになる頃には寒さに負けて散歩はやめた。
それからどうしたんだっけ。
確か一人散歩で迷い込んだ、いかにも狸が出てきそうな坂道を夫に見せたくて、「狸坂を見つけた」と連れていき、そこから二人で週末散歩をするようになったのだった。
その夫も50を過ぎた。今では誰よりも早く目が覚め、シャッターを開けている。
シャーッ。カーテンの開く音がした。
起きたようだ。
この時間までよく眠り続けられるなあ。
若くて健康で悩みが無いということだ。
「やってもうた」
空々しいのが、またのっそり降りてきた。