10ヶ月ぶりに美容院に行く。
久しぶりの電車に久しぶりの街中に前日から緊張する。
きっと帰ってきたら疲れ果てて何にもできないだろうと、あらかじめ夕飯をこしらえていくことにした。
「シチューとカレーと生姜焼き、どれがいい?」
居合わせた息子に聞くと
「カレー!」
即答。
「あ、ゆうとくが、変に凝った奴じゃなくて、ノーマルの、あの箱に書いてある通りのにしてくれ」
先日のカレーといい、最近へんてこりんなのが続いているのでそう付け足された。
トマトを入れると味に深みが出るというので、本の言うとおり、無水鍋に下からトマト、玉ねぎ、人参、ジャガイモ、肉を入れ、コトコト野菜の水分だけで煮込んだものを作って出したが、不評だった。
「普通のでいいんだけど。ま、これはこれでいいけど」
作る方としては、ちょっと気の利いたレストランっぽいものができたわと得意になって出したが、お好みでは無かったようだ。
夫も「美味しいよ」と言いながらもいつものようにおかわりはしない。
作り方が下手だったのかしらと、本格カレーのキットを買ってきて、入っていた作り方の説明書その通りに作った時はもっと不評だった。
「スパイスが効きすぎてる」
いや、そのスパイシーさが売りなんですけど。こちらサイドといたしましては。
キッチンにはインド料理店のような香りが立ち込めいかにも本場のものらしきものが出来上がったのだが、ウケは良くなかった。
「普通の、普通のにしてくれ」
えっらそうに、と思うが、彼らが求めているのはつまり、バーモンド氏が提唱しているそのままのカレー。
りんごも蜂蜜も入っているから、余計なことしなくていいですよ、これだけ入れてくださいという、あっちの方。
というわけで、昨日は皆様のご要望に従い、そのまんまのザ、ハウス的なものを作った。
玉ねぎ、ジャガイモの分量も指示通り、人参は半分と言われれば、いつものように野菜多い方がいいやと一本丸々放り込んだりせずにちゃんと半分。
水も750ccとあれば、目分量でジャーッと入れずにちゃんと軽量した。
煮込み時間も分単位で守り、ちゃんと一度火を止めてからルーを入れ、また煮込む。
完成して舐めてみたが、なんか違うような気がする。なんか足りないような。
「ちょっと味見て」
通りかかった息子に小皿に入れたカレーを渡す。いいの、これで。
ズッとすする。
「これこれこれ!これですよ!」
まさかの大絶賛。
「これですよカレーというものは。」
そ、そんなに?
「求めていたのはこの味です。もうこれ以上なんにも入れるな。これ、これでいいんだ!」
変に気を利かせてあれこれ付け足すなと釘をさされた。
「そっかぁ。じゃあ一人暮らしをするようになってお袋の味が恋しくなったら、いつでも作ってあげるからね」
これを求めて返ってくるなら楽でいいわい。
得意になって鍋をかき回しながら言ったらすかさず返された。
「いや、これ、バーモント様の味ですから」
確かに。