メリハリ

来ちゃったよきちゃったよきちゃったよ。

私のドトール。半年以上ぶりだ。

コロナ騒動で、ドトール、映画はもう当分無理だと思い諦めていた。

免疫が低い私にとっては、ほんの僅かな油断も思いがけないことにつながりかねない。

こうして生きて家族と笑い暮らしていること、雨露しのぎあったかい布団にお風呂に十分の食べ物。

インターネットにテレビ。本。

十分だ。欲張るのはよそう。

そう思っていたのだが。

 

「ちょっと絵、観てくるから、あなた今日、一日家にいるでしょ。お母さんも今日、鍵持たないで出かけて行っちゃったから留守番お願いね」

姉が庭先から顔を出し、どう?これ。くるっと回って買ったばかりの洋服を見せた。

「かわいいじゃん。いいわよ、似合ってる。楽しんどいで」

別に羨ましいと思ったわけじゃない。

が、タイミングが悪かった。ちょうどその時トイレ掃除の途中だった。

見送り、続きに取り掛かる。

 

ラジオを聴きながら便器を雑巾で拭いていると、舞踏会に行くお姉さまたちを見送った後のシンデレラみたいだと、ふと思う。

ま。図々しいが。シンデレラはもっと働き、もっとよく動く。

どんよりテレビを眺めていたりなど、決してしない。

それが一昨日のこと。

 

「ちょっと歩いてくるわ」

ここ数日、体調不良でずっと家に閉じこもっていた。

天気もいい。身体もずっと楽になった。外の空気を吸って気分転換してこよう。

俺も出かける予定なんだけど何時ごろ帰るという息子に、ドトールでまったりというわけにもいかないから、早く戻るよと返事をした。

「なんでドトール駄目なの」

え?

帰宅すればやれ手洗いうがいしろとうるさい息子に、この時期外でお茶したとバレた日にゃ、ただじゃ済まされないと、自粛し続けてきたが、え、そうでもないの?

「あ、コロナか。ま、十分気をつけてくれよ」

なに。許容?

神経質な息子の口から、やんわりOKが出た途端、心がふわりと自由になる。

注意すればいいのか。

繋がれていた首輪を外された気分になった。

 

で。早速の。ドトールにおります。

いいなあ。やっぱり。

この適度なざわつき。BGM。私に無関心な人の間で過ごす自分だけの時間。

こういうのに飢えていたんだなと、気がつく。

 

どうしよう。

パンドラの箱を開けちゃった。

もう我慢の日々には戻れないかもしれない。

こんなにいい気分になれるんだもん。

家の中で動画をじっと観ているよりずっと楽しいし、活気ずく。

なによりメリハリが、つく。

 

また来よう。

いつ来てもいいんだ。

タブーが減ると心は軽くなる。

心が軽くなると、いじけたりしなくなる。ような気がする。

 

この空間を味わえること。ありがたい。

ありがたいなあ。

ほんっと、ありがたい。

 

手洗いうがい。手洗いうがい。

帰ったら念入りにする。