ペロッと剥がれる

歯医者に検診に行った。

赤い薬のようなものを塗ってぶくぶくっと口をすすぐ。

磨き残しのところだけ色素が残る。

毎回ドキドキする。

「鏡を持ってご自分で確認してもらっていいですか?」

娘と母くらいの年齢差なんだろうな。歯科衛生士のお嬢さんが、私に手鏡を渡す。

「えっと。あ、これは。すごいです。磨き残しがない。ないですよ。これはなかなかすごいことです」

えーうっそー。はしゃぎたいのを

「あら。そうですか。よかったわ」

大人の女性ぶる。お腹ののなかはウヒョウヒョ言っているが、それは控えた。

最近気がついた。

自分ではなんの気なく、家庭の延長でつい、発言する言葉も身振りも、側から見れば中年女性の訳のわからない妙な行動に過ぎず、どう扱ったらいいか困るようだ。

そう。中年女子になっているのだ。どうも。

自分はいつまでも自分のまんまと認識していても、取り巻く社会で接する人が年下になっている。下手すると先生も。

昔からの友人のように「ハイハイ」と流すこともできないし、かと言って「はしゃぐでない」と嗜めることも憚られる。

ただ黙って目の前の女の浮かれ具合が治るのを待つしかない。

そしておちゃらけながらその冷めたリアクションにハッと気がつき、恥ずかしくなる。

「本当です。これはすごいですよ。」

衛生士の女の子はアイラインの綺麗に入った目をクッとさらに開いて私を見つめる。

でしょっでしょ。嬉し。今日何かご褒美買って帰っちゃおうっかなぁ。

最近、なにもお買い物してないから、こういうのにかこつけちゃお。

溢れる言葉をググッと抑え

「あら。嬉しいわ」

彼女はきっと私をなんて口数の少ない女性だと、はにかみ屋さんだと、今きっと思っている。

「ありがとうございました。次回はいつ頃伺えばよろしいでしょう。・・・あ、はい。3ヶ月後ですね。ではまた、よろしくお願いいたします」

そそそそそっと部屋をでた。

そこに。

アッラー。トンさん!ヤーン、こんにちわぁ」

顔なじみの看護師さんが向こうから手を振って寄ってきた。

「ヤーン!おひさしぶりぃ、お元気だった?」

つられて両手を前にだし、ブルブル降る。

「今日、検診だったの。ふふふふ、なんと。磨き残しゼロ!フッフーン」

5分ともたず、私の仮面。