どうもこのテレワークシステムは本格的に導入されるような気がしてきた。
毎日夫が家にいるのはなんとなく、落ち着くので嬉しい。
一時的だと思って、二階の寝室を明け渡した。パーテーションもその場しのぎのつもりで買った。だからベッドの脇の自分の机には、ブルートウスのヘッドフォン、イヤホン、パソコン、キーボード、読みかけの本などがそのまま置いてある。
家事がひと段落したり、二階に洗濯物を干しに行ったついでに、ここでぼんやり本をパラパラめくったり、ブログを書いたり、思いつきであちこちのサイトを眺めたりして過ごすのが日常だった。
そしてその細切れの、一人にストンと落ちる瞬間が大事な時間だった。
コロナが落ち着いたとしても、このまま、ネット会議をしながら、必要な時だけ出社するというやり方が定着するのではないかと、あちこちで囁かれている。
そんな気がする。
ひょっとしたら息子が就職しても、こちら様も家で仕事組になるかもしれない。
これはまずい。
先日、ガスファンヒータのそばに陣取ったミニ机も、この数日の急な気温低下に伴いあっけなく退去した。
誰も文句は言わなかったが、やはり気が引ける。
結局、リビングと台所を区切るカウンターの脇に移動した。
スタンドとオイルヒータをゴロゴロ持ってきて、そこをぐるっとパーテーションで囲む。
あっちにうろうろこっちにうろうろ。
落ち着いたそこは、目の間に冷蔵庫、ガス代、洗濯機が並び、とてもじゃないが、火事から離れて私の時間なんて雰囲気には慣れない。
しかし、ちょっと台所をやっては、ここでずる休みをし、鍋蓋がカタカタ言い始めたらまた台どこに戻ったり、それはそれで勝手がいい。
どこだろうが、パーテションで囲めばそこが、私の基地なのだ。
ここを拠点としよう。
そう決めた。
二階からパソコン、キーボードらを持ってきて本格的居を構える。
机の下から電源をとり、ケーブルをそれぞれつなぐと、机の上は配線だらけになってしまった。
イヤホンのはこれ。首掛けヘッドフォンのはこれ。iPadとiPhoneはこれ。スピーカはこれ。
パソコンはこれ。
白と黒のビニールに包まれたヒモ状のコードはちっとも素敵でない。
充電してないときは外して小さなカゴにまとめておくことにした。
なんとなく黒い配線の先を見た。
あれ。これって。
急いでケーブルを次から次へと機器に差し込む。
なんということだ。
購入するたびにその機器についてきたケーブルをそれ専門としていたが、ヘッドホン、イヤホン、スピーカーの先っちょは、どれも同じ形状のものだった。
つまり、一本あればそれで充分用は足りるのであった。
「なんだよなんだよ」
一人照れ笑いする。
「もうやだぁ。早く言ってよぉ」
夕暮れの薄暗い台所の片隅でフロアスタンドだけがぼんやりオレンジの灯をつけている。
それを囲み込んだパーテションの中から不気味に笑う声。
「こわいんですけど」
息子が怯える。