9月7日(月)
目覚めてすぐにベッド脇のテレビをつける。
台風はどうなっただろうか。
九州、山口、奄美、頭をよぎる人達がいる。
幸い想定した被害よりは・・・と告げるが、画面に映るのは薙ぎ倒された電柱や崩壊した家屋。
いきなり強い雨音がして、私のところでも降り出した。
ああ降ってきた・・エアコンの効いた部屋でぼんやり窓の外の様子を伺っている、そのありがたさ。
自分の存在に自信が持てず持て余し、悶々としていることなんて、彼らの心痛に比べると恥ずかしい。
恥ずかしいのに、それがどういうことか、ちゃんとわかり切ることのできない私は、シャッキリ気持ちを切り替えられず、変われない。後ろめたい。
「今日、車で送って行ってあげるよ」
病院の検診日だと言ったので夫がそう言ってくれた。助かる、と一瞬思ったが、そこまでするほどでもないようにも見える。
「大丈夫だよ、降ったり止んだりみたいだから、雨の上がってる合間を見ていくよ」
それでも夫は降っていようが止んでいようが、送ると決めたから準備ができたら声をかけるようにと言い張った。
採血もあるし、早めに出よう。
朝食を済ませ、皿を洗い、洗い上がった洗濯物を乾燥機にいれる。入れながら、被災地の人をここでも思い出し、チクリと後ろめたくなる。
日焼け止めにファンデーションを雑に塗っただけの、いつもの手抜きメイクに今日は頬紅もした。幾分、元気そうに見える。先生への敬意だ。あんまりいい加減な身なりで行くのは先生に失礼なように思う。
あれ。でも一応患者なんだから顔色とか診るのに、ほっぺに何か塗ってたらわからなくて困るかな。ティッシュで落とした。
よく考えたら今は診察室でもマスクをしているんだった。
丁度、雨が止んだので、昨日から用意しておいたワンピースに着替え、リュックを持って急いで外に出た。夫に行ってきますと言うと仕事を中断して降りてくるから、言付けは忘れたふりしてそっと出た。
診察券、よし。保険証、持った。採血が終わってから診断を待つ間に読む本も、暇つぶし用のヘッドホンとiPadも入れた。
予定通り、予約1時間半前に到着。よしよし。この時間なら今日中に検査結果も出る。
全て順調。
消毒を済ませ、体温をはかり、診察券を機械に入れた。
『今日は何科の診察を希望ですか』
入院中お世話になった全ての科がずらりと並ぶ。あれ、いつもと違う。
いつもなら予約のある総合内科のなんとか先生何時からと、勝手に表示され確認ボタンを押すだけなのに。
9月に入ってシステムを変更したようだ。
なんの疑問もなく、受信するところのボタンを押し、機械の下からペロッと出てきたピンクの紙を取り上げる。
あら。採血の予約が書かれてない・・・。
もしや。
嫌な予感を胸に隅っこの台の上で財布を広げる。
あった、予約表。
・・・やっぱり。
予約日は14日だった。もう一週間あとだった。
受付に行き、「間違えてきてしまって、受付も済ませて気がついたのですが。今日はこれで帰ます 。この紙はどうしたらいいでしょう」と若い女性事務員に尋ねると、彼女は心底気の毒そうな顔をして
「それはそれは・・大変でしたね。では・・これ・・いいですか?キャンセルということで」
と私を労った。
いいんですいいんです、こんなこと、日常茶飯事なので、よくあることなんで慣れてます。私よくやらかすんで。大丈夫落ち込んでないですから。そんな可哀想な目で見ないで大丈夫ですから。
と、言う代わりに
「ええ、お願いします」
とキッパリさっぱり答えてみた。私の気にしてませんオーラは届いただろうか。
病院を出るとまだ9時半。夫には「遅くても3時までには帰るから。それまでにちゃんと自分で時間になったらお昼食べておいてよ、カレーがあるから。帰った時に、ごめんまだ食べてないとかだったら怒るからね」と昨夜散々念を押したのに。
せっかくだからいつも億劫で先延ばしにしてた、皮膚科に寄って帰ろう。